バイオ・メディカル

慢性C型肝炎 免疫療法の対訳学習(自分訳の改善点)

前回に引き続き、自力翻訳した以下の明細書について記事を書きます。

【公表番号】特表2012-503011(P2012-503011A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【発明の名称】慢性C型肝炎ウイルス感染の免疫療法

今回は、自分の訳(以後「自分訳」と書いています)の改善点(ミスを含む)を中心にまとめます。

自分訳の改善点

full-length, inactivated HCV NS3 protein

The HCV sequences can consist of a full-length, inactivated HCV NS3 protein, or at least one immunogenic domain thereof, wherein the composition elicits an HCV NS3- specific immune response.

公開訳:HCV配列は、完全長の不活性化されたHCV NS3タンパク質、又はその少なくとも1つの免疫原性領域から構成されてもよく、この場合、組成物はHCV NS3特異的免疫応答を誘発する。

自分訳:HCV配列は、全長HCV NS3タンパク質、不活性化HCV NS3タンパク質、または少なくとも1つのそれらの免疫原性ドメインからなっていてもよく、組成物は、HCV NS3特異的免疫応答を誘発する。

なぜ私は「不活性化した全長HCV NS3タンパク質」などとせず、「全長HCV NS3タンパク質、不活性化HCV NS3タンパク質」と分けたのでしょうか。

理由は、「A, B, or C(AかBかC)」と解釈したためです。”a full-length, inactivated HCV NS3 protein”というフレーズでみていませんでした。

「AかつBであるもの、またはC」と考えるのが正しいのではないでしょうか。

「全長タンパク質であること」と「不活性化されていること」が同じ条件に対する選択肢として列挙されるのは不自然だと気づくべきでした。

fewer post treatment relapses

When extrapolated out to SVR, the inventors expect that the population of patients receiving the therapeutic protocol of the invention will have fewer post treatment relapses and improved SVR rates as compared to patients who received SOC only.

公開訳:SVRに当てはめると、本発明者等は、本発明の治療プロトコルを受ける患者集団では、SOCのみを受ける患者と比べて、治療後の再発が少なく、SVR率が改善されるであろうと予想する。

自分訳:SVRに外挿すると、本発明者らは、本発明の治療プロトコルを受けた患者集団ではSOCのみを受けた患者と比較して治療後再燃率が少なく、かつSVR率が改善すると予想する。

ETR(治療終了時のウイルス陰性化)に改善がみられたため、SVR(ETRから6か月後のウイルス陰性化)に当てはめた場合も改善されるだろうという一文です。

まず、「再燃率」について。

SVRに率がついているから…という理由で、「再燃」にも「rate:率」を補ったのですが、補うならむしろ「再燃数が少ない」とするのが良かったのかと。「率」は余計な補いでした。

それから、「これから治療を受ける患者にも効果が見られる」という意味合いですので、「SOCのみを受けた患者」ではなく「SOCのみを受ける患者」の方が良かったと思います。

時制

These results demonstrate a substantial improvement in complete virologic response at week 48 in patients receiving GI-5005 triple therapy compared to SOC alone.

公開訳:これらの結果は、SOC単独と比べて、GI-5005三剤併用療法を受ける患者において48週でウイルス学的完全著効において実質的な改善を示す。

自分訳:これらの結果は、GI-5005 3剤併用療法を受けた患者では、SOC単独を受けた患者と比較して48週後のウイルス学的完全奏効率が大幅に改善したことを実証するものである。

この一文についても先ほどと同じで、「これから治療を受ける患者にも効果が見られるであろう」という意味合いですので、「SOC単独を受けた患者」ではなく「SOC単独を受ける患者」とする方が良いと思います。

同じ理由で「改善した」は「改善する」が好ましいです。

daily

In a preferred embodiment, ribavirin is administered daily at between 1000 mg (subject <75kg) to 1200 mg (subject ≥75 kg), administered orally in two divided doses.

公開訳:好適な実施形態において、リバビリンをl000mg(被験者<75kg)~1200mg(被験者≧75kg)で毎日投与し、2回の分割量で経口投与する。

自分訳:好ましい実施形態では、リバビリンは1日1回1000mg(75kg未満の対象患者)~1200mg(75kg以上の対象患者)を2回に分けて経口投与する。

「1日1回を2回に分けて」は意味不明です。結局のところ何回投与するのか分かりません。

訳出したものをちゃんと確認していない証拠です。

ただ、”daily”、”weekly”、”monthly”などが登場する投与頻度に関する文について疑問点があるので、別の記事で取り上げる予定です。

係り受け

Thus, in a non-liquid formulation, the excipient can comprise, for example, dextrose, human serum albumin, and/or preservatives to which sterile water or saline can be added prior to administration.

公開訳:従って、非液状配合物においては、賦形剤は、例えば、デキストロース、ヒト血清アルブミン、及び/又は保存料を含むことができ、投与前にこれらに滅菌水又は塩溶液を添加することができる

自分訳:したがって、非液体製剤では、賦形剤は、例えばデキストロース、ヒト血清アルブミン、および/または投与前に滅菌水または生理食塩水を添加することができる保存剤を含み得る。

デキストロースもヒト血清アルブミンも、それら単体としてではなく滅菌水や塩溶液を添加して使用します。

したがって、「投与前に滅菌水または生理食塩水を添加することができる」のは保存料だけではなく、デキストロースとヒト血清アルブミンも含まれます。

complex nutrients

The medium may comprise complex nutrients or may be a defined minimal medium.

公開訳:培地は、複合栄養素を含んでもよく、又は所定の最少培地であってもよい。

自分訳:培地は複雑な栄養素を含んでもよく、または定義された最小培地であってもよい。

“defined minimal medium”は、「定義された最小培地」としました。

既知の化学的性質を持つ物質が既知の量で含まれる培地を「化学的に定義された培地」と言い、最小限の物質が含まれている場合「最小培地」と言うものと理解しています。

しかし、「複雑な栄養素」とはなんでしょうか?

恐らく、”complex”に対して反射的に「複雑な」を当て、「何かは分からないが様々な栄養素が入っているのだろう」とねじ曲がった解釈をしたのだろうと思います。

この一文で私が注意を向け、調べるのに時間をかけたのは“defined minimal medium”であり、”complex”についてはほとんど調べることもしませんでした。

「他の語に気を取られていた」など言い訳にはなりませんが。

この訳は、私が「自分の訳に対して説明ができない」訳出をしていることを示しています。

outcome

Of the endpoints in Table 1, EVR represents the most important negative predictor of outcome.

公開訳:表1のエンドポイントのうち、EVRは、最も重要な転帰の負の予測因子である。

自分訳:表1における評価項目のうち、EVRは治療成績の最も重要な負の予測因子である。

原文の他の箇所で”treatment outcome”を「治療成績」と訳出していたという理由で、この一文の”outcomeに”に対して勝手に「治療」を補って「治療成績」と訳出しましたが、公開訳のように「転帰」とすれば良かったです。

今回の明細書では、原文のまま訳出すると分かりにくいと感じて補って訳出したものを「補いシリーズ」として別の記事に取り上げる予定です(が、今回の「補い」は不要な補いであると思います)。

まとめ

今回の記事では、誤訳を含む自分訳の改善点についてまとめました。

単語に対する勝手な解釈、不必要な補足、そして自分の訳の不自然さに対する不注意が多く、反省しています。

特に、”daily”を”once daily(1日1回)”として訳出していたこと、そしてその訳に違和感を持てなかったことに対して、かなり落ち込みました。

他の部分の訳出をいくら頑張ったところで、この”daily”1つで原文の意味を大きく変えるミスをしたのですから完全アウトです。

今後は英日を対比させたチェックに目を向けすぎるのではなく、原文から一旦離れて日本語文書として最初から最後まで通して読みながら内容に違和感がないかチェックします。

次回の記事では、疑問点を中心にまとめる予定です。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です