バイオ・メディカル

慢性C型肝炎 免疫療法の対訳学習(公開訳に対する気づき)

自力翻訳した以下の明細書について、公開訳との比較が終わりました。

【公表番号】特表2012-503011(P2012-503011A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【発明の名称】慢性C型肝炎ウイルス感染の免疫療法

この記事では、公開訳に対する気づきを中心にまとめます。

※明細書の内容を掘り下げて学習するための題材として、公開訳を使用しています。公開訳の誤訳を指摘することを目的とはしていません。

「原文に忠実」について

最近の記事には、上の※印のように記載しています。

「公開訳と比較して私の訳の方がレベルが高いでしょ?」と言うつもりで記事を書いているわけではないからです。

公開訳の翻訳者とは異なり、こちらは制限なく時間をかけられます。公開訳よりも圧倒的に有利な条件でつくった訳で比較しているのです。

ですので、公開訳のミスや不自然な訳(と自分が考える訳、という意味です)がある場合に、公開訳の翻訳者より自分の方が優っているなどとは感じられません。

「自分も複数の案件を抱えるようになれば、同じミスをするかもしれない。限られた時間でミスをしないように大量にこなすにはどうするか」という視点で公開訳をみています。

ただ、本当に嫌味な言い方であることを承知で書くと、

公開訳と同じレベルの訳(訳し分け、日本語表現など)で良いのなら、今回の自力翻訳で要した時間をかけずに終われたと思います。

公開訳のように原文の語にもっと忠実な訳語をあてる方がいいのか?自分の訳はやりすぎなのか?

しかし、原文の意図するところを訳語に反映するのが「原文に忠実」ということではないのか?

公開訳と比較していると、分からなくなることがあります。

今回の自分の訳には重大な誤訳がありましたので、偉そうなことを言える立場ではないことは理解しています(自分のミスについては別の記事で取り上げます)。

それに、自分が時間をかけてつくった訳文には、現時点で気づいていない不自然さがあるかも知れません。

では何が言いたいのかというと、日本語の読みやすさを重視するあまり、脳のリソースをかけるべきところが疎かになってはいなかったか?ということです。

脳のリソースををかけるべきところとは、内容を理解すること、そして自分の訳の違和感に気づくことです。

今回は公開訳に対する気づきを中心に取り上げますので、詳しくは例を挙げながら別の記事に書きます。

公開訳に対する気づき

Sustained Virologic Response

While interferon/ribavirin therapy is relatively efficacious in patients suffering from genotype 2 or 3 HCV infection (-85% of patients reach Sustained Virologic Response (SVR)), about 50% of patients infected with genotype 1 HCV do not reach SVR.

公開訳:インターフェロン/リバビリン療法は、遺伝子型2又は3のHCV感染に罹患している患者で比較的有効である(患者の約85%が持続的ウイルス学的反応(SVR)に達する)が、遺伝子型1のHCVに感染している患者のうち約50%がSVRに達しない。

自分訳:インターフェロン/リバビリン療法は、遺伝子型2または遺伝子型3のHCV感染に罹患している患者では比較的有効である(患者の85%はウイルス学的著効(SVR)に達する)が、遺伝子型1のHCVに感染している患者の約50%はSVRに達しない。

“Sustained Virologic Response”に対して学会サイト、PMDAサイト等で多くヒットするのは「ウイルス学的著効」という日本語訳です。

公開訳では”response”に対して「反応」で統一させている印象を受けました。

同じ語に対しては訳語を統一するようにという依頼のもとで「持続的ウイルス学的反応」としているのでしょうか。

1 log 10 reduction

“Null Responders” are patients that cannot achieve at least a 1 log 10 reduction in viral load by week 12 on SOC; it is believed that these patients may have an impaired immune system.

公開訳:「無効反応者(Null Responders)」とは、SOCでの12週までにウイルス量で少なくとも1というlog10減少を達成できない患者である。これらの患者は免疫系に障害があると考えられる。

自分訳:「無反応例(Null Responders)」は、SOC開始から12週後までに少なくとも1log10のウイルス量減少を達成できない患者であり、これらの患者は免疫不全である可能性があると考えられる。

ウイルスクリアランスの指数であり、治療効果の指標となるウイルス減少量についての一文です。

“1log10″は、比較前のウイルス量に対して10分の1の減少がみられたことを意味しており、訳出は「1というlog10」ではなく「1log10」が好ましいと考えます。

“Null Responders”に対する訳出については別の記事で取り上げる予定です。

係り受け

Numerous reports suggest that viral replication, the level of viremia, and progression to the chronic state in hepatitis C-infected individuals are influenced directly and indirectly by HCV-specific cellular immunity mediated by CD4+ helper (Th) and CD8+ cytotoxic T lymphocytes (CTLs) .

公開訳:多くの報告によれば、ウイルス複製、ウイルス血症の程度及びC型肝炎感染個体における慢性状態への進行は、CD4+ヘルパー(Th)及びCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって媒介されるHCV特異的細胞性免疫によって直接及び間接的に影響を受けることが示唆されている。

自分訳:多数の報告では、C型肝炎感染者におけるウイルス複製、ウイルス血症レベル、および慢性状態への進行が、CD4+ヘルパーT細胞(Th)およびCD8+細胞傷害性T細胞(CTL)が介在するHCV特異的細胞性免疫によって直接的または間接的な影響を受けることが示唆されている。

“in hepatitis C-infected individuals”は、”viral replication, the level of viremia, and progression to the chronic state”に係るものと考えます。

T cell response

Studies of humans and chimpanzees have revealed that HCV can replicate for weeks before the onset of CD4+ and CD8+ T cell responses can be detected in the liver and in the blood.

公開訳:ヒト及びチンパンジーでの研究によれば、HCVはCD4+及びCD8+T細胞反応の発生が肝臓及び血液において検出される前に数週間にわたって複製可能であることが明らかになっている。

自分訳:ヒトおよびチンパンジーの研究により、CD4+およびCD8+T細胞応答の開始が肝臓や血液中で検出可能になるまでの数週間、HCVが複製することができることが明らかにされた。

学会や病院など信頼できるサイトで調べると「T細胞反応」より「T細胞応答」の方が一般的に使用されている表現であると考えます。

係り受け

CD4+ and CD8+ T cell responses must be sustained for weeks or months beyond the point of apparent control of virus replication to prevent relapse and establishment of a persistent infection.

公開訳:CD4+T細胞及びCD8+T細胞の反応は、持続感染の再発及び確立を防ぐためにウイルス複製の明確な制御の時点を超えて数週間又は数カ月間維持されなければならない。

自分訳:CD4+およびCD8+T細胞応答は、再燃および持続感染の確立を防止するために、ウイルス複製が見かけ上制御された時点を超えて数週間または数カ月間持続されなければならない。

まず、”relapse”は「再発」ではなく「再燃」であると考えます。

今回の明細書について、”relapse”は、血中ウイルス量が一旦は減少したものの再び検出可能な値に戻ることを意味しています。

つまり、「治る傾向を示したけれど、再び悪化する」と理解しており、それに相応しい語が「再燃」です。

「再発」とすると、一旦は完全に治癒したものが再度発症するというイメージです。

それから、「持続感染の再発」という公開訳の表現に違和感を持ちます。完全寛解したものが再発するのなら、そもそも「持続感染」ではないと考えるためです。

initiated over the same time period

In one aspect, the immunotherapeutic composition administration is initiated over the same time period as the interferon administration is initiated.

公開訳:一態様においては、免疫治療組成物の投与を、インターフェロン投与の開始と同じ期間にわたって開始する。

自分訳:一態様では、免疫療法組成物の投与は、インターフェロンの投与が開始されるのと同じ時期に開始される。

“over the same time period”について、原文の他の文に対しては「同じ期間にわたって」と訳出していました。

しかし、この一文で「同じ期間にわたって開始する」とするのは不自然であると考え、「同じ時期に開始する」としました。

individual

Approximately 20-40% of individuals infected with HCV clear the virus during the acute phase, whereas the remaining 60-80% develop chronic disease which may result in hepatic failure and liver cancer.

公開訳:HCVに感染した個体の約20~40%が急性期の間にウイルスを排除するが、残りの60~80%は慢性疾患を発症して、この患者は肝不全及び肝臓癌を生じる場合がある。

自分訳:HCV感染者の約20~40%は急性期の間にウイルスを排除するが、残りの60~80%は慢性疾患を発症し、結果として肝不全や肝癌がもたらされる可能性がある

公開訳では”individual”に対して「個体」という訳語をあてているのですが、この一文で「個体」といちいち訳出しなくてもよいのでは…と感じました。

実際には”individual”を無視するのではなくて、”individuals infected with~”で「感染者」とすれば、この語を表すことができていると考えているのですが、どうでしょうか。

prior

In one aspect, the subject is naive to any prior interferon-based treatment for HCV and has a high viral titer at baseline (>600,000 IU/ml HCV RNA levels). In one aspect, the subject is a prior non-responder or partial responder to a treatment for HCV.

公開訳:一態様において、被験者はいずれのインターフェロンベースのHCV前治療に対してもナイーブであり、ベースラインで高いウイルス価(>600,000IU/mlのHCV RNAレベル)を有する。一態様において、被験者はHCVの治療に対して従前の無反応者又は部分反応者である。

自分訳:一態様では、対象患者はHCVに対するインターフェロンベースの前治療歴がなく、かつベースライン時のウイルス力価が高い(HCV RNA量が600,000 IU/ml超)。一態様では、対象患者はHCVに対する前治療無効例か、部分反応例である。

この”prior”の訳語は、決めるまでに時間を要しました。

詳しくは別の記事で取り上げますが、公開訳の「従前の無反応者又は部分反応者」は、やや分かりにくいと感じました。

product

In this study (Fig. 1), GI-5005, a whole, heat-killed S. cerevisiae immunotherapy product expressing high levels of HCV NS3 and コア antigens, was used in conjunction with peg-IFN/ribavirin (SOC) to treat subjects with genotype 1 chronic HCV infection.

公開訳:この試験において(図1)、GI-5005(高レベルのHCV NS3及びコア抗原を発現する全加熱死菌エス・セレビシエ免疫療法産物)をペグ-IFN/リバビリン(SOC)と併用して、遺伝子型1慢性HCV感染症の被験者を治療した。

自分訳:この試験では(図1)、HCV NS3およびコア抗原を高レベルで発現する全菌体加熱殺菌S.セレビシエ免疫療法 GI-5005を、ペグ-IFN/リバビリン(SOC)と併用して、遺伝子型1の慢性HCV感染被験者に投与した。

“treat”に対する訳の違い(「投与」と「治療」)については別の記事にまとめるとして、ここでは”product”について取り上げます。

「産物」というと、細胞に産生させた生産物というイメージを持ちます。

抗原に対して「S.セレビシエの産物」と表現するなら理解できますが、GI-5005は投与対象者を免疫化するためのワクチンですから、「製剤」とか「剤」という訳語の方が好ましいのではないかと考えます。

「改善は~を改善した」

This improved rate of clearance projected to a 3 to 4 log20 improved reduction of virus if sustained for the full 48-72 week regimen. The improved rate of second phase viral kinetic clearance supports a role for the proposed mechanism of immunotherapy- induced, improved elimination of infected hepatic cells.

公開訳:3~4log20を目的としたこのような排除速度の改善は、48~72週の全レジメンで持続する場合はウイルスの減少を改善した。第2相ウイルス動的排除のこのような改善率は、免疫療法誘発性の改善された感染肝細胞除去の機構案についての役割を裏付ける。

自分訳:この改善したクリアランス速度が48~72週間のレジメン全期間で持続した場合、ウイルス減少が3~4log改善することが見積もられた。第2相のウイルス動態学的クリアランス速度の改善は、免疫療法によって感染肝細胞の排除が改善するという、提示された機序の関与を支持するものである。

原文を読んでいれば公開訳の言いたいことは分かるのですが、この公開訳だけをみた場合、「改善は~を改善した」という表現がやや分かりにくいと思います。

しかし特に2文目”The improved rate of~”の訳は、どうすれば読みやすくなるか?と考えながら日本語表現をちょこちょこと修正したため、時間を要しました。

surrogate for

ALT is a well-validated measure of hepatic injury and serves as a surrogate for hepatic inflammation.

公開訳:ALTは十分に有効性が確認された肝傷害の尺度であり、肝炎の代わりになる

自分訳:ALTは、十分に検証された肝損傷の指標であり、肝の炎症のサロゲート指標として機能する。

「ALTが肝炎の代わりになる」というのは不自然だと感じます。「肝臓の炎症の代替(サロゲート)指標になる」ということではないでしょうか。

“surrogate”に対してサロゲート「指標」と補ったのは好ましくなかったでしょうか。

substantial improvement

These results demonstrate a substantial improvement in complete virologic response at week 48 in patients receiving GI-5005 triple therapy compared to SOC alone.

公開訳:これらの結果は、SOC単独と比べて、GI-5005三剤併用療法を受ける患者において48週でウイルス学的完全著効において実質的な改善を示す。

自分訳:これらの結果は、GI-5005 3剤併用療法を受ける患者では、SOC単独を受ける患者と比較して48週後のウイルス学的完全奏効率が大幅に改善することを実証するものである。

公開訳では、原文中にいくつか登場する”substantial”に対して「実質的に」という訳をあてているのですが、「大幅に」や「かなりの」を意味しているものと考えます。

otherwise

In addition, triple therapy is expected to be useful to rescue patients who would otherwise fail therapy under SOC alone.

公開訳:加えて、三剤併用療法は、他の方法ではSOC単独での療法に失敗する患者を救済するために有用であることが期待される。

自分訳:さらに、3剤併用療法は、SOC単独では無効となったであろう患者をレスキューするのに有用であることが予想される。

原文の”otherwise”は、「他の方法では」ではなくて、「3剤併用療法を受けなければ」つまり「SOC単独では」という意味合いであると考えます。

この一文で”otherwise”をあえて訳出しなくとも「SOC単独では~」で伝わると考えましたが、「3剤併用療法を受けずにSOC単独では」などと訳出すべきだったか?とも思います。

また、別の箇所に登場する以下の”otherwise”は「本来であれば」と訳出しています。

同じことを言っているのですから、訳出しないことで統一するか、あるいは訳出するならするで統一すべきだったとも思います。

These results can lead to dose sparing regimens of SOC therapy {i.e., reducing or eliminating SOC components) for at least some patients, and is expected to allow at least some patients who would otherwise fail SOC therapy to remain on therapy, perhaps a modified therapy, and achieve a positive outcome.

公開訳:これらの結果は、少なくとも一部の患者についてSOC療法の用量を減らすレジメン(すなわち、SOC成分の減少又は除去)をもたらす可能性があり、別の方法ではSOC療法が失敗する少なくとも一部の患者が、療法(おそらくは改変された療法)を続け、そしてプラスの結果を達成することが可能になることが期待される。

自分訳:これらの結果により、少なくとも一部の患者ではSOC療法の用量減量レジメンにつながる場合があり(すなわち、SOCの成分を低減または除去する)、本来であればSOC療法が無効となるであろう患者のうち少なくとも一部が治療を継続し(場合によっては治療を変更して)、良好な結果を達成することが予想される。

in some cases/detected

However, the effect of the added immunotherapy was striking and surprising, because the effect on early virologic markers appeared extremely early during the course of interferon/anti-viral therapy, in some cases being detected just 8 days after the commencement of the interferon/anti-viral therapy.

公開訳:しかし、追加された免疫療法の効果は、顕著であり、意外である。その理由は、早期ウイルス学的マーカーに対する効果が、インターフェロン/抗ウイルス療法のごく初期に現れ、場合によっては、インターフェロン/抗ウイルス療法開始のちょうど8日後に検出されるからである。

自分訳:しかしながら、インターフェロン/抗ウイルス療法期間中の極めて早期に早期ウイルス学的マーカーで効果がみられ、一部の症例ではインターフェロン/抗ウイルス療法開始からわずか8日後に効果が認められたことから、免疫療法を追加する効果は顕著かつ驚くべきものであった。

まず”in some cases”について。

これは、「場合によっては」などと訳出することもありますが、この一文においては「一部の症例では」とする方が好ましいのではないかと考えます。

「多くの症例(患者)では早期ウイルス学的マーカーで効果がみられたが、一部の症例では、わずか8日後に効果が認められた」ということを言いたいのではないでしょうか?

したがって、”detected”に対する公開訳の「検出された」についても、「効果が検出された」となり、やや不自然であると思います。

prescribed

In some patients, and particularly those who are identified as intolerant to interferon therapy, a modified schedule of therapy can be prescribed which may include continued immunotherapy alone, or a double therapy protocol of immunotherapy and antiviral therapy.

公開訳:一部の患者、及び特にインターフェロン療法に対して不耐性であることが確認された患者においては、免疫療法のみの継続、又は免疫療法及び抗ウイルス療法の二剤併用療法プロトコルを含み得る、療法の改変されたスケジュールを処方することができる。

自分訳:一部の患者、特に、インターフェロン療法に対して不耐容であると特定されている患者では、投与スケジュールの変更が指示される場合があり、これには、免疫療法単独を継続するか、免疫療法と抗ウイルス療法の2剤併用療法プロトコルを継続することが挙げられ得る。

公開訳の「療法の改変されたスケジュールを処方」は直訳的すぎると感じました。

ちなみに、”or”に対する訳について、「免疫療法単独を継続する」という選択肢Aと、「免疫療法と抗ウイルス療法の2剤併用療法プロトコルを継続する」という選択肢Bがあり、

公開訳は「AまたはBを含み得る」、自分訳では「AまたはBが挙げられ得る」としているのですが、「AしたりBしたりすることが挙げられ得る」の方が良かったと思います。

concurrent anti-viral therapy

In another aspect, the interferon is administered to the subject during concurrent anti-viral therapy every 2, 3 or 4 weeks, for at least 24 weeks, 48 weeks, or longer.

公開訳:別の態様において、インターフェロンを、被験者に、併用抗ウイルス療法中、2、3又は4週間ごとに少なくとも24週間、48週間、又はそれ以上投与する。

自分訳:別の態様では、インターフェロンは、抗ウイルス療法との併用療法中に、少なくとも24週間、48週間、またはそれよりも長い間、2週毎、3週毎、または4週毎に対象患者に投与される。

“patients”に対する訳の違い(「被験者」と「対象患者」)については別の記事にまとめます。

“concurrent anti-viral therapy”に対する「併用抗ウイルス療法」は、言いたいことは分かるものの日本語として理解しにくいと感じます。

concurrent use

As used herein, concurrent use does not necessarily mean that all doses of all compounds are administered on the same day at the same time.

公開訳:本明細書において用いられる場合、併行使用は、必ずしも全化合物の全用量を同じ日の同じ時間に投与することを意味しない。

自分訳:本明細書で使用する場合、併用投与は、必ずしも全成分の全ての用量が同日同時刻に投与されることを意味するわけではない。

“concurrent use”でつまり「併用投与」ってことではないでしょうか。それともuseに対しては「使用」とすべきなのか?

この一文に限らずですが、公開訳のように原文の語にもっと忠実な訳語をあてる方がいいのか?自分の訳はやりすぎなのか?と分からなくなることがあります。

expansion

In particular, any composition that includes one or more HCV antigens or immunogenic domains thereof in a formulation that, as a composition, elicits an HCV-specific, a T cell-mediated immune response {e.g., resulting in activation and expansion of HCV-specific CD4+ and/or CD8+ T cells), is expected to be useful in the present invention.

公開訳:特に、組成物として、HCV特異的T細胞性免疫応答を誘発する、配合物中に1つ以上のHCV抗原又はその免疫原性領域を含む任意の組成物(例えば、HCV特異的CD4+及び/又はCD8+T細胞の活性化及び発現をもたらす)は、本発明において有用であることが期待される。

自分訳:特に、組成物として、製剤中に1つ以上のHCV抗原またはその免疫原性ドメインを含み、HCV特異的なT細胞性免疫応答(例えば、HCV特異的CD4+および/またはCD8+T細胞の活性化と増殖をもたらす)を誘発する任意の組成物が、本発明において有用であることが予想される。

文脈と”expansion”という語自体の意味から判断すると、”activation and expansion”は「(T細胞の)活性化と増殖」ではないでしょうか。

公開訳では恐らく”expansion”を”expression”と読み違えた結果、「発現」としているのではないかと考えます。

in the cytosol or the mitochondria

In another aspect of the invention, other sequences can be used to target, retain and/or stabilize the protein to other parts of the yeast vehicle, for example, in the cytosol or the mitochondria.

公開訳:本発明の別の態様において、他の配列を用いて、細胞質又はミトコンドリア中の酵母ビヒクルの他の部分に対して、タンパク質を標的化、保持及び/又は安定化させることができる。

自分訳:本発明の別の他の態様では、他の配列を使用して、酵母ビヒクルの他の部分(例えば、細胞質基質やミトコンドリア)にタンパク質を標的化、保持および/または安定化することができる。

恐らく、公開訳では、”other parts of the yeast vehicle”が”the cytosol or the mitochondria”の中に存在しているものと解釈しています。

しかし、原文の意図するところは、”to other parts of the yeast vehicle”の例として”in the cytosol or the mitochondria”が挙げられるということではないでしょうか。

produce

Yeast ghosts are typically produced by resealing a permeabilized or lysed cell and can, but need not, contain at least some of the organelles of that cell.

公開訳:酵母ゴーストは、典型的には透過処理した細胞又は溶解細胞を再密封することによって産生され、この細胞の細胞小器官の少なくとも一部を含む可能性があるが、含む必要はない。

自分訳:酵母ゴーストは、一般的に透過処理または溶解した細胞を再封入することによって作製され、その細胞のオルガネラのうち少なくとも一部を含有してもよいが、必ずしも含有する必要はない。

「産生」というと、「細胞が作り出すもの」という印象を受けます。人為的に作ったという意味を含ませるためにも「作製」の方が良いと考えますがどうでしょうか。

from

It will be appreciated that in some embodiments (i.e., when the antigen is expressed by the yeast vehicle from a recombinant nucleic acid molecule), the antigen is a protein, fusion protein, chimeric protein, or fragment thereof, rather than an entire cell or microorganism.

公開訳:いくつかの実施形態では(すなわち、抗原が組換え核酸分子由来の酵母ビヒクルによって発現される場合)、抗原は、細胞の全体でも微生物でもなく、タンパク質、融合タンパク質、キメラタンパク質又はそのフラグメントであることが理解されるであろう。

自分訳:一部の実施形態では(すなわち、抗原が、組換え核酸分子から酵母ビヒクルによって発現される場合)、抗原は、細胞全体や微生物全体ではなく、タンパク質、融合タンパク質、キメラタンパク質、またはそれらの断片である。

組み換え核酸分子を酵母ビヒクルに搭載して、(この組み換え核酸分子を搭載した酵母ビヒクルを含む免疫組成物を)投与した生体内で、酵母細胞によって組み換え核酸分子から抗原を発現させます。

この一文に限らず、公開訳では”from”に対し「由来の」という訳語をあてているのですが、「組換え核酸分子由来の酵母ビヒクル」という表現に違和感を持ちます。

酵母ビヒクルは組換え核酸分子に由来しているわけではなく、単に酵母ビヒクルに核酸分子を搭載しているだけだからです。

むしろこの”from”は”antigen(抗原)”に係っているのではないでしょうか。

treatment-emergent

The ELISpot results revealed a treatment-emergent HCV specific immune response in GI-5005 treated subjects、but not in placebo subjects.

公開訳:ELISpotの結果、GI-5005治療した患者においては治療緊急HCV特異的免疫応答が明らかになったが、プラセボの被験者ではそうではなかった。

自分訳:ELISpotの結果により、GI-5005投与被験者では試験治療下でのHCV特異的免疫応答が認められたが、プラセボ投与被験者では認められなかった。

“treatment-emergent”で「治療下での」や「治験薬投与下での」という意味があります。

ここでは治験に関する一文なので「試験治療下での」としました。

「治療緊急HCV特異的免疫応答」ではどんな応答であるのか、理解しにくいと感じます。

prior course of treatment

Patients (140 total enrolled) were randomized 1:1、and stratified by virologic response during their prior course of treatment in this open label trial;

公開訳:患者(全部で140例が参加)を1:1に無作為化し、この非盲検試験における治療の従前のコースの間のウイルス学的反応によって層別化した;

自分訳:この非盲検試験では、患者(組み入れられた合計140例)を1:1にランダム化し、前治療期間におけるウイルス学的効果別に層別化した。

「治療の従前のコースの間の」が分かりにくいと感じます。”prior course of treatment”で「前治療期間」としましたが、どうでしょうか。

project

This improved rate of clearance would project to a 3 to 4 log10 improved reduction of virus if sustained for the full 48-72 week regimen.

公開訳:クリアランスのこの改善率は、完全な48~72週の投与計画について維持される場合ウイルスの3~4というlog10の改善された減少を投影する

自分訳:この改善したクリアランス速度が48~72週間のレジメン全期間で持続した場合、ウイルス減少が3~4log改善することが見積もられる

この一文では”project”だけ取り上げます。

原文の言いたいことは、以下であると理解しています。

  • 3剤併用療法開始から4週間でウイルスクリアランス速度が改善した
  • 改善したウイルスクリアランス速度が仮に48~72週間のレジメン全期間で持続した場合は、3~4log改善することが見積もられる

“project”に対する公開訳の「投影する」にやや不自然さを感じます。

with last observation carried forward

Interim results reporting on 52/72 of the triple therapy subjects and 65/68 SOC subjects who were evaluable for EVR at the time of interim analysis (> 2 logio reduction in HCV RNA at week 12、with last observation carried forward) were evaluated.

公開訳:中間解析の時間のEVRについて評価可能であった三剤併用療法被験者の72例のうちの52例及びSOC被験者の68例のうち65例に対して報告する中間結果(12週でのHCV RNAにおける2以上のlog10減少、最終観察は前向きに実行)を評価した。

自分訳:中間解析時点でEVR(12週後にHCV RNAが2log10超減少、最後に観測された値で補完する)が評価可能であった、3剤併用療法の52/72例の被験者と、SOCの65/68例の被験者の中間成績を評価した。

“last observation carried forward”で調べればヒットするのですが、”with last observation carried forward”は「欠測値は最後に観測された値(最新の値)で補完し、その値でもって解析する」ということではないでしょうか。

まとめ

この記事では、公開訳と自分訳とを比較した際の気づきについてまとめました。

引き続き、この明細書を使ってあらゆるテーマで記事を書きます。

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