前回のブログ記事に続き、以下の明細書について書きます。
【公表番号】特表2023-519681(P2023-519681A)
【公表日】令和5年5月12日(2023.5.12)
【発明の名称】SYSTEMS AND METHODS FOR X-RAY IMAGING TISSUE SPECIMENS
ここでは、疑問点についてまとめます。
全体的な振り返りは、以下の記事で行っています。
疑問点
tissue coverage
The technologist may also manipulate the breast to ensure proper tissue coverage in the image receptor’s field of view.
公開訳:技師は、乳房を操作し、受像器の視野内で適切な組織対象範囲を確実にし得る。
自分訳:技師はまた、組織が確実に受像器の視野に適切に入るように、乳房を操作する場合がある。
“coverage”の訳に悩みます。
「入るように」としましたが、「受信器の視野内で適用範囲となるように」などとする方が良かったのか…。
verification that
For example, the tissue specimens may be imaged to provide verification that the required or desired tissue was correctly obtained.
公開訳:例えば、組織試料は、要求されるまたは所望の組織が正しく取得されたことの確認を提供するために撮像され得る。
自分訳:例えば、組織標本は、必要とされるかまたは所望される組織が適切に採取されたかどうかを検証するために撮像され得る。
この”verification”を「確認」とするか「検証」とするかで悩みました。
それから、「採取されたかどうかを検証する」の方が良いと考えて上記の訳にしましたが、「採取されたことを検証する」の方が良かったか、とも思います。
the
In yet another example, the system further includes a specimen container configured to retain one or more tissue specimens.
公開訳:さらに別の例では、システムは、1つ以上の組織試料を保持するように構成された試料コンテナをさらに含む。
自分訳:さらに別の実施例では、本発明のシステムは、1つまたは複数の組織標本を保持するように構成された標本容器をさらに備える。
単に「システムは」とすると、何のシステムを指しているのか分かりずらいと感じ、「本発明のシステム」としました。
(請求項を除いて)”the”については、必要に応じて「本発明の」、「前記」、「この」などの訳を当てたり、もしくは特に訳出しなかったりしています。
しかし、自分の判断で”the”を訳出したり、しなかったりするのは良くないだろうとも思います。
公開訳のように、”the”は何も訳出しないことで統一するのが良いのでしょうか。
tube arm
The compression system 104 is supported on a first support arm 124 and the x-ray source 120 is supported on a second support arm, also referred to as a tube arm 126.
公開訳:圧縮システム104は、第1の支持アーム124上に支持され、X線源120は、管アーム126とも称される第2の支持アーム上に支持されている。
自分訳:圧迫システム104は、第1の支持アーム124に支持され、X線源120は、X線管アーム(tube arm)126とも呼ばれる第2の支持アームに支持されている。
“tube arm”をそのまま訳出すると「管アーム」なのですが、関連資料を読むと、「X線管アーム」のことであると分かり、「X線管アーム」とした上で”tube arm”をスペルアウトしました。
しかしこれは「余計な補い」なるのでしょうか。
X線源を支持しているアームなのだから、わざわざ「X線管アーム」と訳出しなくても良かっただろうとも思います。
generate the resolution
This is because the imaging requirements for mammography and tomosynthesis images are often different than for specimen images and the primary imaging system may not generate the resolution needed for specimen image analysis.
公開訳:これは、マンモグラフィおよびトモシンセシス画像に関する撮像要件が、多くの場合、試料画像に関するそれと異なり、一次撮像システムが、試料画像分析のために必要とされる分解能を発生させないこともあるからである。
自分訳:この理由は、マンモグラフィおよびトモシンセシス画像の撮像要件が、標本画像の撮像要件と異なる場合が多く、かつ一次撮像システムでは、標本画像解析に必要とされる解像度の画像を生成しない可能性があるためである。
この”generate the resolution”の訳に悩みました。
「解像度を生成する」というのが不自然に感じて「解像度の画像を生成」としましたが、これも余計な補いでしょうか。
「解像度をもたらさない」などとする方が良かったのか、あるいは「解像度を生成しない」でいいのか。
それから、”resolution”に対する公開訳の訳「分解能」は、顕微鏡などに使用される対象への識別能力を指すため、今回は「解像度」の方が好ましいと考えます。
to be
In some examples, a specimen imaging filter may be provided in the tube head so as to define an x-ray path in relation to the placement of the reservoir and the work station unit 136 to be used during the tissue specimen imaging process.
公開訳:いくつかの例では、試料撮像フィルタが、組織試料撮像プロセス中、使用されるべきリザーバおよびワークステーションユニット136の設置に関連したX線経路を画定するために、管ヘッド内に提供され得る。
自分訳:いくつかの実施例では、標本撮像フィルタがX線管ヘッドに設けられてもよく、組織標本撮像プロセスの間に使用される貯蔵器とシステム制御・作業ステーションユニット136の配置に対して、X線経路を画定するようにする。
“to be”について、確かに公開訳のように「~されるべき●●」という意味はあるのですが、この一文の”to be”は、「使用される予定の」という意味合いではないかと考えます。
ただ、「使用される」とすると、訳文に”to be”が反映されていないようにも受け取られてしまうので好ましくないでしょうか。
released
During imaging of the tissue specimen 612, the patient’s breast may be released from the gantry as required or desired.
公開訳:組織試料612の撮像中、患者の乳房は、要求または所望に応じて、ガントリから解放され得る。
自分訳:組織標本612を撮像する間、必要に応じて、または所望に応じて、ガントリによる患者の乳房の固定を解除してもよい。
「乳房を解放する」というのが日本語として不自然に感じ、「乳房の固定を解除する」と補いました。
“release”に対してこの訳はやりすぎでしょうか…
along
In some examples, a fluid such as saline may be used to lavage the breast cavity during excision, and to vent the tissue sample to facilitate transport along the sample transport system 606.
公開訳:いくつかの例では、生理食塩水等の流体が、切除中、乳房空洞を洗浄し、サンプル輸送システム606に沿って、輸送を促進するために組織サンプルを放出するために使用され得る。
自分訳:いくつかの実施例では、生理食塩水などの流体を使用することにより、切除中に胸腔を洗浄し、かつ組織標本を排出して標本輸送システム606を通る輸送を容易にすることができる。
“along”というと「沿って」が良いのだろうとは思うのですが、
文脈に基づいて、「例えばチューブ材料に流体を流して、組織標本を輸送しやすくする」という場合を考えます。
この場合、組織標本を運ぶ流体は、輸送システムに「沿って」流れるというより、輸送システムの中を「通って」流れています。
ですので、この一文の”along”を「通って」としました。
ただ、明細書では、チューブ材料はあくまで輸送システムの一例として挙げられているだけです。
すべての組織標本が輸送システムを「通って」いるわけではないと考えると、「通って」と訳出するのは好ましくなかったかもしれません。
example
最後に、”example”についてです。
今回、私は”example”に対して「実施例」と訳しました。一方、公開訳は「例」でした。
“example”については、以下の記事にて気づきを書いています。
上の記事では、「見出しとして”Examples”がなくとも、発明者が実施形態を具体的に説明している例であれば「実施例」と訳出して問題ない」とまとめていました。
今回はまさに「見出しとして”Examples”はないが、X線装置の構成を具体的に説明している」明細書だったので、「実施例」としました。
しかし、公開訳と比較して「例の方が良かったのでは…?」と感じました。
というのも、確かにX線装置の構成を具体的に説明しているのですが、それとは別に「ある”example”では」「そして別の”example”では」と色々な”example”がさらっと書かれていて、すべての”example”に対して具体的な説明がなされているわけでもないからです。
なので具体的な説明のない”example”は「実施例」より「例」の方が良いのでしょうか…。
ちょっと分からなくなってしまいました(^^;)
まとめ
今回の明細書は、内容自体で悩む箇所はそれほど多くはありませんでした。
それよりも、日本語の読みやすい表現(かつ原文から逸れないような表現)に悩むことの方が多かったです。
特許の言い回しにも慣れてきました。より正確に、かつはやく訳出できるようにします。