今回は、「細胞の区画化」について、そして合成されたタンパク質が区画を利用して輸送されるメカニズムなどについてまとめます。
細胞内区画とは
細胞内の区画(compartment)とは、細胞内で膜によって囲まれて細胞質と隔てられた部分をいう。
例えば、核、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞などの細胞小器官は、細胞内で自身の細胞膜に包まれて存在している区画である。
細胞の区画化は、細胞内の小器官を保護するとともに、細胞内で多くの化学反応を同時進行させるために必要なものである。
化学反応と区画化
真核細胞の中では、数千もの化学反応が同時に進行している。
例えば、一方ではグルコースを合成する反応、もう一方ではグルコースを分解する反応が起こっている。そのため、これらの反応は「隔離」される必要がある。
そこで、細胞小器官が区画化されることによって各区画が分業し、細胞にとって必要な化学反応を効率よく行うことができる。
例として、タンパク質合成における区画の役割についてまとめる。
タンパク質合成と細胞内区画
細胞質のリボソームで合成されるタンパク質は、実際に使われる区画へと移動する必要がある。
例えば、ホルモン産生細胞で合成されたタンパク質(ホルモン)は、細胞外に出て血液中に分泌されて初めてホルモンとして働くことができる。
シグナル配列
タンパク質には「行き先」を指定する特別なアミノ酸配列(シグナル配列)があり、そのシグナル配列をもとに移動する。シグナルを欠くタンパク質は、細胞質にとどまる。
タンパク質の輸送方法
合成されたタンパク質は、その行き先によって以下の3つの方法で輸送される。
- 核膜孔を通る輸送
- 細胞膜の転送装置による輸送
- 小胞体による輸送
①核膜孔を通る輸送
核内におけるDNA複製や転写に関与するタンパク質は、核内へ輸送される。
核への輸送は、核の内膜と外膜を貫通する核膜孔を通して行われる。
②細胞膜の転送装置による輸送
細胞質から小胞体、ミトコンドリア、葉緑体に移動するタンパク質は、それらの膜に存在する膜タンパク質複合体(転送装置)によって輸送される。
③小胞体による輸送
タンパク質が細胞内の区画から区画に移動する輸送は、小胞体によって行われる。
タンパク質合成を行うリボソームは小胞体に付着しており、これを粗面小胞体という。タンパク質合成を行ったリボソームは、小胞体に送り出す。
ある区画から離れた小胞体が、別の区画にある膜に融合することによって、区画間を移動する。
ゴルジ体、エンドソーム、リソソーム、細胞表面など、大半のタンパク質は輸送小胞によって輸送される。その際、「SRP」が重要な役割を担う。
SRP(シグナル配列認識粒子)
タンパク質の行き先を指定するシグナル配列を、細胞質中に存在するSRP(シグナル配列認識粒子)が認識する。
SRPはシグナル配列と、合成を行っているリボソームの両方に結合する。
SRPの結合により、リボソームによるタンパク質合成の速度が低下する。そしてSRPは、小胞体の膜表面に埋め込まれている「受容体」に結合する。
次にSRPが解離し、受容体がリボソームを転送装置に渡す。そしてタンパク質合成が再開され、ペプチド鎖が小胞体内に取り込まれる。
それぞれの細胞小器官には独自の受容体があるため、その受容体に合うSRPのところにタンパク質が移動する。
エンドサイトーシスとエキソサイトーシス
小胞体への輸送は、細胞内におけるタンパク質輸送の第一段階である。
合成されたタンパク質は小胞体からゴルジ体、そしてゴルジ体から様々な細胞内部位または細胞外に向かう。細胞外への分泌をエキソサイトーシスという。
ここではエキソサイトーシスと、「エンドサイトーシス」についてまとめる。
エキソサイトーシス
エキソサイトーシス(exocytosis)は開口分泌ともいい、細胞内の物質を細胞外に放出することをいう。
新たに合成されたタンパク質は小胞体の中に取り込まれる。小胞体はタンパク質をゴルジ体へ輸送させる。
そしてタンパク質はゴルジ体を移動しながら濃縮され、やがて細胞膜へ移動して細胞外へ分泌される。
修飾と選別
小胞体やゴルジ体では、タンパク質に修飾が施されたうえで選別が行われる。
修飾とは、新たな化学的性質を付加する側鎖を結合させることである。多くのタンパク質は、化学結合によってオリゴ糖鎖が付加され、糖タンパク質となる。
修飾されるオリゴ糖の機能として、以下が挙げられる。
- タンパク質の分解を防ぐ
- 正しく折りたたまれるまで小胞体内にとどめておく
- 目的の細胞小器官に間違いなく輸送させるためのシグナルとなる
細胞外へ放出
修飾を受けたタンパク質は、一部がエンドサイトーシスに向かう選別を受けたのち、輸送小胞によって細胞外に放出されるエキソサイトーシスに向かう。
エキソサイトーシス経路に選別されたタンパク質は、輸送小胞によって次々と膜融合しながら細胞外へ放出される。
エンドサイトーシス
エンドサイトーシス(endocytosis)は飲食作用ともいい、細胞が細胞膜で物質を取り囲んで内部に取り込むことをさす。
取り込まれる物質は細胞膜の一部に囲まれ、内側に陥入する。
そして細胞内に存在するエンドサイトーシス小胞に取り込まれ、初期エンドドソームに送られる。その後、後期エンドソームを経てリソソームに送られ、分解される。
食作用と飲作用
エンドサイトーシスは、形成するエンドサイトーシス小胞の大きさによって、小型の小胞による飲作用(pinocytosis)と、それよりも大型の食胞による食作用(phagocytosis)に分類できる。
食細胞によるエンドサイトーシス
マクロファージや好中球は、体内に侵入した細菌などの病原微生物を食作用によって取り込み、生体を感染から守っている。これらの細胞は食細胞とよばれる。
細菌を細胞内に取り込むと食胞を形成する。細菌を包んだ食胞がリソソームと融合することによって、細菌を分解している。
エンドソーム脱出
エンドソーム脱出(endosomal escape)は、エンドサイトーシスによって取り込まれた物質が細胞質内に放出されることをいう。
脂質ナノ粒子(LNP)を利用した細胞内への薬剤の送達では、mRNAなどを含む薬液など薬学的に活性な分子を含ませたナノ粒子が、エンドソームによって細胞内に取り込まれる。
そのままではリソソームと融合して分解されてしまうが、送達物質(カーゴ)はエンドソーム脱出によって細胞質内に放出され、翻訳されて有効成分としてのペプチド抗原となる。
参照
- ナノ技術を使って薬物を体内に届ける
https://iaar.chiba-u.jp/igpr/research/incubator/page_16.html - RNA送達(デリバリー)用イオン化脂質
https://www.funakoshi.co.jp/contents/70495 - エンドソーム脱出(Endosomal Escape)のモニター用試薬
https://www.funakoshi.co.jp/contents/70473