バイオ・メディカル

microRNA(遺伝子発現を抑制するRNA)

今回は、microRNA(miRNA)についてまとめます。

miRNAとは

タンパク質に翻訳されないRNA

miRNA(microRNA)は、21-25塩基長の小分子RNA(small RNA、sRNA)である。

RNAの中には、タンパク質をコードするmRNA以外に、タンパク質をコードしないnon-coding RNA (非コードRNA、ncRNA)が多く存在する。

miRNAはnon-coding RNAの一つである。つまり、タンパク質に翻訳されないRNAである。

miRNAはゲノム上のmiRNA遺伝子によってコードされる。ヒトゲノムではおよそ2000種のmiRNAが存在することが知られている。

miRNAの機能

①タンパク質合成を抑制

miRNAは、「タンパク質合成の調整役」として働くRNAである。それは、miRNAが以下を行うためである。

  • mRNAを分解
  • タンパク質への翻訳を阻害

miRNAは、標的mRNAの3’非翻訳領域(UTR)に結合することによりmRNAを分解する。

また、mRNAが分解されることによってその遺伝子産物であるタンパク質の合成が抑制される。これを転写後ジーンサイレンシング(PTGS)という。

植物におけるPTGS

植物は、ウイルスRNAや外部から導入した遺伝子を異常な「非自己」と認識して、PTGSによって制御することが知られている。

通常、細胞のまわりに存在するmRNAは、一本鎖として存在する。そこにウイルスが自己複製する際に生成される二本鎖RNA(dsRNA)が存在すると、異常な状態とみなして遺伝子抑制を行う。

複数の翻訳を制御

ヒトの場合、タンパク質をコードする全遺伝子の3分の1以上がmiRNAによって調節されており、1つのmiRNAが100種類以上のmRNAの翻訳を制御する。

不完全な相補鎖に結合

miRNAがmRNAに結合する際、不完全な相補鎖、つまり完全に相補的な塩基配列ではなくミスマッチが含まれる相補鎖であっても、mRNAの翻訳阻害を引き起こすことが知られている。

②疾患の発生に関与

miRNAは、がんなどの重大な疾患の発生に関与することが知られている。

例えば、がん抑制遺伝子のmRNAに結合するmiRNAが増えると、がんを抑制できるタンパク質が減る。

また、がん遺伝子のmRNAに結合するmiRNAが減ると、がん遺伝子産物が増えることにつながる。

このように、タンパク質合成を調整するmiRNAの異常が、細胞増殖に関わるタンパク質の異常を引き起こし、結果としてがんの発生につながる。

miRNAの生合成プロセス

miRNAは、以下のような2段階のプロセスを経て生合成される

  1. pri-miRNA、pre-miRNAの生成
  2. 成熟miRNAの生成

①pri-miRNA、pre-miRNAの生成

①-1、pri-miRNAの生成

最初の段階として、miRNA 遺伝子がRNAポリメラーゼIIによって一本鎖RNAに転写される。これによってprimary miRNA転写物(pri-miRNA)が生成される。

pri-miRNAは、ステムループというループ構造をもつことが特徴である。

ステムループ


画像引用元:Wikipedia

ステムループ(stem-loop)とは、一本鎖RNAにおいて部分的に形成された二重らせんである。

二本鎖のDNAと異なり、基本的にRNAは一本鎖である。しかし、同じ鎖の相補的な塩基対によって部分的に二重鎖が形成される。二本鎖部分(stem)の末端には、対合していない配列によってループ(loop)が形成される。

ヘアピン(hairpin)またはヘアピンループ(hairpin loop)としても知られている。

①-2、pre-miRNAの生成

pri-miRNAは、マイクロプロセッサ複合体という酵素群によって切断される。中でもよく知られているのがDroshaという酵素であり、Drosha複合体ともいわれる。

Droshaは、成熟miRNAを生成するために必要な「はさみ」の役割を担う。Droshaによって切断されると、中間前駆体であるpre-miRNA(precursor miRNA)が生成される。

ここまでは、未成熟なmiRNAである。

②成熟miRNAの生成

中間前駆体pre-miRNAは、Exportin5というタンパク質によって核から細胞質に輸送される。

細胞質に輸送されたpre-miRNAは、Dicerという酵素によってループ部分が切断される。そして、二本鎖の成熟miRNA(mature miRNA)が生成される。

pre-miRNA生合成とオーバーハング

成熟miRNAが生成されるためには、酵素によってループ構造が切断される必要がある。そのために重要であるのがオーバーハングである。

オーバーハングとは

オーバーハング(overhang)とは、二本鎖のうちの片方の末端がもう片方よりも突出した領域のことである。

オーバーハングを認識

pri-miRNAがDrosha複合体に切断される際、一方の鎖がもう一方よりも2塩基ほど長い3’オーバーハング(3´-overhang)を残す。

その後、Exportin-5 がオーバーハングを認識して pre-miRNA を核から細胞質に輸送する。そして、Dicerが3’末端にオーバーハングのある鎖をガイド鎖と認識し、pre-miRNA 切断する。

したがって、成熟miRNAの生成には、オーバーハングを適切に認識される必要がある。

RISCとRNA干渉

RISCの形成

2段階のプロセスを経て生成されたmiRNAは単独では機能せず、Agoタンパク質に取り込まれて複合体を形成する。

この複合体は、RNA誘導サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex RISC)とよばれ、遺伝子発現を制御するものとして機能する。

RISCは、二本鎖miRNAのうちの一方の鎖を鋳型にして、相補的なmRNAを認識して切断する。この過程をRNA干渉という。RNA干渉によりmRNAは分解され、タンパク質への翻訳が阻害される。

RNA干渉

RNA干渉(RNA interference、RNAi)は、遺伝子の発現を特異的に抑制する手法である。

RNA干渉では、miRNAとsiRNAが中心的な役割をもつ。

siRNA

siRNAとは


画像引用元:Wikipedia

siRNA(small interfering RNA)は、21-23塩基対から成る短鎖RNAである。

ヘアピン構造RNA(short hairpin RNA; shRNA)または直鎖の長い二本鎖RNA(dsRNA)が、酵素Dicerによって切断され、siRNAが生成される。

siRNAは、RNA干渉(RNAi)に関与する。

具体的には、RISCと複合体を形成し、自身と相補的な塩基配列をもつDNAをメチル化することによってmRNAへの転写を抑制する。

遺伝子編集によって標的の遺伝子座を欠失させ発現させないようにする遺伝子ノックダウンとは異なり、遺伝子自体は残したまま、その発現を抑制する。

つまり遺伝子を黙らせるという意味合いで遺伝子サイレンシングという。

発現が抑制されるだけである程度は残るため、遺伝子ノックダウンとも表現される。


画像引用元:Wikipedia

遺伝子ノックダウンとsiRNA

遺伝子ノックダウンとは

siRNAを用いたRNA干渉は、遺伝子ノックダウンに利用される。

遺伝子ノックダウンとは、遺伝子の転写量を減少させたり、mRNAの翻訳を阻害したりすることによって、特定の遺伝子の働きを阻害することである。

miRNAが部分的に相補的な標的mRNAに結合するのに対し、siRNAは完全に相補的なmRNAに結合して分解するため、siRNAはmiRNAよりも特異性が高い。

この特性を使用して、siRNAは特定の遺伝子の機能を阻害する遺伝子ノックダウンに用いられる。

RNA干渉におけるmiRNAとsiRNA

miRNAは転写後ジーンサイレンシング(PTGS)に関与する。

PTGSでは相同的な塩基配列をもつmRNAと特異的に結合し、それによってmRNAが切断されて遺伝子の発現が抑制される。

一方、siRNA転写型ジーンサイレンシング(TGS)に関与し、相補的な塩基配列をもつDNAをメチル化することによってmRNAへの転写を抑制する。

参照

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