この記事では、以下の5つのバイオマス燃料についてまとめています。
・木質バイオマス
・バイオディーゼル燃料
・バイオエタノール
・バイオガス
・バイオジェット燃料
バイオマス燃料とは
バイオマス燃料の「バイオマス」とは、動植物から生まれた再生可能な生物資源の総称である。
バイオマスで作り出す燃料のことをバイオマス燃料という。
バイオマス燃料では、石炭や石油などの限りある資源ではなく家畜の糞や生ごみなどを原料として利用する。
石油燃料と比べ、大気中への二酸化炭素排出量を抑えることができるため、ガソリン代替品として注目されている。
バイオマス燃料の原料
バイオマス燃料で用いられる主な原料は、以下のように本来ゴミとして処分されるものや、これまで未利用であったものである。
・微生物
・木材
・生ごみ
・海藻
・紙
・動物の死骸
・家畜ふん尿
ここからは、記事の冒頭で挙げた5つのバイオマス燃料についてまとめる。
木質バイオマス
木質バイオマスは「木材に由来する再生可能な資源」である。
原料となるのは、土木・建設、建築物の解体などにおいて発生する廃材や、未利用の間伐材である。
未利用の間伐材に注目
間伐とは、森林の樹木の生長を促すために密集した樹木を間引くことである。定期的に間伐を行うことで太陽光が当たるようになり、結果として残った樹木の生長が促される。
しかし、間伐材の多くは活用されることなく未利用のまま放置されていたため、未利用の間伐材を木質バイオマスとして利用するための取り組みが行われている。
木質バイオマスの用途
木質バイオマスの用途の例として以下が挙げられる。
・暖房、発電(ストーブやボイラーなど)
・マテリアル(農産物の梱包、家畜の敷料)
・燃料(ガソリン代替品)
木材を燃料として利用できる形としては「薪」や「かんな屑」などがある。ここでは「チップ」と「ペレット」を紹介する。
チップ
画像引用元:https://w-pellet.org/pellet-2/1-3/
チップは木材を裁断することで細かく切り刻んだものである。
次に紹介するペレットよりも安価であり、小規模な温水ボイラーから大規模な発電施設の燃料として利用される。
ペレット
画像引用元:https://w-pellet.org/pellet-2/1-3/
ペレットは木材を粉砕して乾燥させた原料を圧縮成形したものである。大きさが均一であるために輸送や保管がしやすく、施設内の自動化がしやすい。
小規模な温水ボイラーから大規模な発電施設の燃料として利用される。
半炭化ペレット
画像引用元:https://kajitanikougyou.jp/pellet
※ペレット(左)と半炭化ペレット(右)
半炭化(torrefaction、トレファクション)ペレットは、ペレットを加熱して炭化物(木炭)になる前に炭化を停止し、水分を除去したものである。
ペレットを半炭化することで発熱量、耐水性、強度が向上する。
カーボンニュートラルに貢献
「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、森林の管理などによる温室効果ガスの吸収量を引いて、合計を実質的にゼロにすることである。
木質バイオマスの原料となる樹木は、光合成により二酸化炭素を吸収する。
一方、木材を燃焼してエネルギーを取り出すときに、せっかく吸収した二酸化炭素が排出してしまう。
しかし、伐採した樹木の代わりに新しい樹木が二酸化炭素を吸収するため、大気中の温室効果ガスの濃度には影響を与えない。
バイオディーゼル燃料
バイオディーゼル燃料は、菜種油、ひまわり油、大豆油、コーン油などを原材料としたディーゼルエンジン用の燃料のことである。
ディーゼルエンジンでは、圧縮・加熱した空気に燃料を噴射して着火させることでエネルギーを得る。
バイオディーゼル燃料の用途
バイオディーゼル燃料は、軽油の代替品として使用される。
軽油は、ガソリン(30~180℃)と比較して240~350℃と高温で蒸発する燃料である。燃費効率が良くパワーが強いことから、大型トラックや大型バスなどで使用される。
バイオディーゼル燃料は軽油と比較して、喘息や酸性雨の原因となる硫黄酸化物の排出を1/2~1/3減少できる。
製造
原料となる植物性食用油は、脂肪酸とグリセリンの化合物であるトリグリセリド(トリアシルグリセロール)である。
トリグリセリドに水酸化カリウムなどアルカリ触媒の存在下でメタノールと反応させると、エステル交換反応によってバイオディーゼル燃料となる脂肪酸メチルエステル(FAME)を得られる。
トリグリセリド(トリアシルグリセロール) + メタノール → 脂肪酸メチルエステル(FAME) + グリセリン
バイオディーゼル燃料における課題
バイオディーゼル燃料の製造では、以下の不純物により燃料の品質が低下するという課題がある。
・遊離脂肪酸
・副生成物の石鹸
バイオディーゼル燃料の原料油は、酵素や熱で分解されて遊離脂肪酸となりやすい。
トリグリセリド → グリセリン + 遊離脂肪酸
日本ではバイオディーゼル燃料の原料として主に食用油の廃油を利用するが、廃食用油は遊離脂肪酸や水といった不純物を含む。
さらに、脂肪酸をアルカリ触媒で反応させる際に副反応として石鹸が生成されてしまう。
脂肪酸 + アルカリ → 石鹸 + 水
これらは燃料の品質を落とす要因となっている。
不純物が多く含まれる燃料を使用し続けると車両に悪影響を及ぼすことから、軽油に混合するバイオディーゼル燃料の品質についてJIS規格が定められている。
酸触媒を使うことで、遊離脂肪酸と低級アルコールを優先的に反応させてエステルに転化させる方法も開発された。
バイオエタノール
バイオエタノールは原料である糖質やでんぷん質をアルコール発酵させて製造する燃料である。
原料
バイオエタノールの原料として、主に以下の2種類が用いられる。
・糖質(サトウキビ、糖蜜、てんさい)
・でんぷん質(トウモロコシ、タピオカ、麦、じゃがいも、さつまいも)
バイオエタノールの用途
バイオエタノールはガソリンの代替品として利用される。
またはガソリンに任意の濃度で混ぜて利用することも可能である。バイオエタノール混合ガソリンは、エタノールの混合率によって「E3(3%混合の場合)」などと表記される。
製造
バイオエタノールの製造において重要なプロセスは「液化・糖化」と「発酵」である。
液化・糖化
原料のデンプンを酵素などで加水分解してグルコースにする。
(C6H10O5)n + nH2O -> nC6H12O6(グルコース)
発酵
その後、酵母や大腸菌などの微生物によってグルコースがエタノールと二酸化炭素に変換される。
C6H12O6(グルコース) → 2C2H5OH(エタノール) + 2CO2(二酸化炭素)
食糧問題と次世代バイオエタノール原料
原料となるトウモロコシやサトウキビは食糧でもある。そのため燃料としての消費が増えると食糧価格が高騰するという問題があった。
そこで、セルロース系原料を使ったバイオエタノールが実用化に向けて研究されている。
「セルロース系原料」とは草や木である。木質バイオマスや稲わらなどが挙げられる。これらは細胞壁に多くのセルロースを含む。
セルロース系原料は全体を軟らかくするための前工程が必要であるため、コストがかかるという課題がある。しかし、食糧と競合する問題を解決するための新しいバイオエタノール原料として研究されている。
バイオガス
バイオガスは、タンパク質やタンパク質などの有機物を発酵した可燃性ガスである。メタンを多く含むために「メタンガス」ともいわれる。
成分は、メタン(CH4)が60~70%、二酸化炭素(CO2)が30~40%、そのほか窒素(N)や酸素(O)、硫化水素(H2S)、水(H2O)などを含む。
天然ガスと同様にメタンが主成分であるため、そのまま燃焼して利用することができる。
原料
原料となる有機物には以下が挙げられる
・生ごみ
・紙ごみ
・家畜ふん尿
これらの有機物を分解するのが、メタン発酵菌をはじめとする微生物である。
メタン発酵菌
画像引用元:Wikipedia
メタン発酵菌(メタン生成菌)は、嫌気的環境においてメタン合成を行う古細菌である。嫌気的環境とは、酸素のない環境のことである。
「古細菌(またはアーキア)」とは、生物の系統の一つである。地球上の全生物は、古細菌、細菌、真核生物の3つに大きく分類されており、古細菌と細菌を合わせて原核生物という。
メタン発酵菌は、動物の消化器官、沼地、海底堆積物、地殻内と様々な環境に存在しており、大気中に放出されるメタンの大半を合成している。
酸素のない環境でなければ生育できないため、バイオガスの発酵プロセスでは気密状態の発酵槽で行うことが重要である。
製造
メタンガスの製造では、原料の前処理を行った後、嫌気的環境において微生物によるメタン発酵を行う。これにより、大量のメタンガス(バイオガス)が発生する。
メタン発酵メカニズム
最終段階において、メタン発酵菌によるメタンの生成が行われる。
メタンは以下のように酢酸が分解するものと二酸化炭素と水素から生成するものがある。
CH3COOH → CH4 + CO2
4H2 + CO2 → CH4 + 2H2O
メタン生成菌は、メチル補酵素M還元酵素という酵素によって有機物の分解を行い、最終的に廃棄物としてメタンを放出する。
用途
バイオガスの主な用途は電気やガスの供給である。
バイオガスの燃焼では二酸化炭素を排出する。しかし原料とするのは二酸化炭素を吸収する植物や、それを食べる家畜のふん尿であるため、大気中に新たな二酸化炭素を排出することがない。
したがってカーボンニュートラルに貢献できる。
また、バイオガスの発酵工程で生じた残さ(微生物が食べ残したもの)を農地の肥料として還元したり、乾燥させて燃料として再利用したりすることもできる。
バイオガスにおける課題
バイオガスには以下のような課題が挙げられる。
・バイオガス化の施設が必要
・発酵残さの処理
バイオガスを製造するためには、焼却施設やバイオガス化施設が必要となるため、環境への配慮が課題となる。
また、製造過程で残った発酵残さを再利用できない場合は、処理が必要となる。
バイオジェット燃料
画像引用元:https://www.euglena.jp/news/20210315/
バイオジェット燃料は微細藻類や木質バイオマスを原料にした航空燃料である。
2021年、藻類のミドリムシ(学名:ユーグレナ)を原料としたバイオジェット燃料によって、民間機が初飛行したことが話題になった。
ミドリムシ(ユーグレナ)
画像引用元:Wikipedia
ミドリムシは淡水に多く存在する単細胞生物であり、藻類に分類される。
鞭毛(毛状の細胞小器官)を持ち水中を泳ぎ回るという動物としての要素を持ちながら、葉緑体を持ち光合成をおこなう植物としての要素も持つ。
脂質含有量が高く体の20~30%が油であることから、油を抽出して燃料にする。
二酸化炭素の排出量を削減
ミドリムシは光合成によって二酸化炭素を吸収するため、従来の燃料と比べて大気への二酸化炭素排出の影響が少ない。
バイオジェット燃料は、コストがかかることや商業プラントの必要性などの課題があるものの、将来的に二酸化炭素排出量を8割削減することができると試算されている。
参考
https://sustainablejapan.jp/2014/08/09/biofuel/11532
バイオエタノール
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=6
バイオエタノールの原料を作る
https://www.nodai.ac.jp/research/teacher-column/0314/
木質バイオマスとは
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/rrm/03_biomass/e-knowledge.html#:~:text=%E8%A3%BD%E6%9D%90%E5%B7%A5%E5%A0%B4%E3%81%8B%E3%82%89%E7%99%BA%E7%94%9F%E3%81%99%E3%82%8B,%E3%81%A7%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
バイオディーゼル燃料(BDF)とは?
https://agreenmiyagi.roukyou.gr.jp/bdf.html
バイオディーゼル
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=7
バイオガス
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%A5%D0%A5%A4%A5%AA%A5%AC%A5%B9
メタンガス化が何かを知るための情報サイト
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html#:~:text=%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E5%BE%AE%E7%94%9F%E7%89%A9,%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E5%87%BA%E6%9D%A5%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
バイオマスとバイオガスの違いとは?バイオガスのメリットについて解説!
https://earthene.com/media/382
メタン発酵の仕組み
http://reneria.co.jp/howabout/construction/fermentation/
バイオジェット燃料政策について
https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/koudokahou/biojetfuel.html