バイオ・メディカル

呼吸と血液循環、人工心肺(ECMO)

この記事では、血液の循環と呼吸、そして循環と呼吸を人工的に行う「人工心肺」についてまとめる。

人工心肺とは

人工心肺は、心臓や肺の機能を代行する装置である。心臓の役割をする「ポンプ」と、肺の役割をする「人工肺」を使用する。

人工心肺の原理を理解するためには、呼吸と血液循環について知る必要がある。

呼吸

空気を吸うことによって酸素を取り込んで体中の細胞に運び、吐く息として二酸化炭素を排出するプロセスを呼吸という。

酸素や二酸化炭素を運ぶのは、血液中の赤血球である。

赤血球


画像引用元:Wikipedia

赤血球はヘモグロビンを包んだ袋のような細胞で、血球成分の99%を占める。

酸素の輸送に特化した細胞であり、核をもたない。

また、ミトコンドリア、リボゾーム、ゴルジ体、小胞体などの細胞小器官も持たず、活動に必要なエネルギーは酵素によってグルコースを分解して得ている。

寿命は約120日で、寿命を迎えた赤血球は脾臓や肝臓などのマクロファージに分解される。

赤血球の働き

赤血球は、肺から得た酸素を取り込み、体の隅々の細胞に運び供給する。また、二酸化炭素の排出にも関与する。

赤血球が酸素を取り込むことができるのは、赤血球がヘモグロビンをもつためである。

ヘモグロビン

赤血球は、ヘモグロビンというタンパク質をもつ。ヘモグロビンは赤血球の重量の約3分の1を占める。残り3分の2はほとんど水分である。

ヘモグロビンは、2価の鉄イオンを含むヘムと、球状タンパク質であるグロビンが結合したものである。

ヘムに酸素が結合することによって、赤血球は酸素を運搬できる。

ヘム↓

画像引用元:Wikipedia

ヘモグロビンと血液の色

血液の赤色は、ヘモグロビンによるものである。ヘモグロビンが酸素と結合しているかどうかによって、動脈血は鮮やかな赤色になり、静脈血は暗赤色になる。

酸化ヘモグロビン

肺から酸素を得たとき、赤血球のヘモグロビンが酸素と結合して酸化ヘモグロビンとなる。

酸化ヘモグロビンは鮮やかな赤色であるため、酸化ヘモグロビンを包んだ赤血球が通る動脈血も、鮮やかな赤色となる。

還元ヘモグロビン

赤血球が体中の細胞に酸素を放った後、つまり酸素を運んでいない時、ヘモグロビンは還元ヘモグロビンとなる。

還元ヘモグロビンは暗赤色であるため、還元ヘモグロビンを包んだ赤血球が通る静脈血も暗赤色となる。

赤血球による二酸化炭素の排出

血液中の二酸化炭素のほとんどは、赤血球内に取り込まれる。

血中の二酸化炭素は、赤血球内の炭酸脱水酵素によって水と反応し、炭酸(H2CO3)を生成する。炭酸は重炭酸イオン(HCO3^-)と水素イオン(H+)に解離する。

CO2 + H2O → 炭酸(H2CO3) → 重炭酸イオン(HCO3^-) + H+

重炭酸イオンは「バンド3」と呼ばれる赤血球膜を縦貫する膜輸送たんぱく質によって、塩素イオンと交換に赤血球外に出される。

重炭酸イオンは、肺の毛細血管で再び二酸化炭素と水に変換され、肺から呼気として体外に排出される。

重炭酸イオン(HCO3^-) → CO2 + H2O

血液循環

酸素を全身の細胞に届けるためには、血液が全身を循環する必要がある。

ここからは、血液がどのように全身を循環するのかをまとめる。

血液の循環には、体循環と肺循環がある。

体循環

体循環は、肺以外の全身を巡る循環である(図の赤矢印)。

左心室→大動脈→全身の組織→大静脈→右心房

動脈血

心臓の左心室から、全身へと血液が送り出される。

左心室から出る太い血管は大動脈である。動脈は酸素を多く含み、鮮やかな赤色をしている(全身の血液循環図の赤色部分)。

全身に血液を送り出す必要があるため、左心室の壁は右心室に比べて約3倍厚い。

静脈血

動動脈から出発した血液は全身を巡り、酸素を配る。静脈血は酸素が少なく、暗赤色である(全身の血液循環図の青色部分)。

全身を巡った血液では、赤血球が二酸化炭素を取り込んで右心房に返ってくる。この心臓に帰ってくる血管が上大静脈と下大静脈である。

肺循環

肺循環は、二酸化炭素と酸素のガス交換を行う循環である(図の緑矢印)。

右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房

全身を巡って右心房に返ってきた血液(静脈血)は、酸素不足の状態である。

酸素不足の血液は右心室から肺動脈を通って肺に向かう。

肺では、酸素を受け取って二酸化炭素を放出する。

酸素を受け取った血液は肺静脈を通って左心房に戻り、再び左心室から全身へと巡る。

次に、肺の構造・機能と肺におけるガス交換についてまとめる。

肺の構造

肺は、心臓の両側に1つずつ存在する円錐形の臓器である。肺には気管支や肺胞が含まれる。

咽頭の下から気道が始まり、2本の主気管支に分岐して左右の肺に入る。肺の中で気道はさらに細かく分岐して、細気管支となる。

肺胞


画像引用元:Wikipedia

細気管支の先端には、何百万個もの肺胞が存在する。

肺胞は、薄い層でできた丸みのある袋状の構造で、ガスを貯める肺胞腔と、肺胞腔を囲む上皮細胞からなる。

肺胞の周りには無数の毛細血管が取り巻いており、毛細血管の薄い壁を酸素や二酸化炭素が通り抜けることによってガス交換を行っている。

丸い形状をした肺胞に毛細血管が張り巡らされることによって表面積が広がり、効率よくガス交換を行うことができる。

また、肺胞の内側にはマクロファージが存在し、吸気とともに侵入した細菌を取り込んで分解する。

肺胞がつぶれない理由

薄い層の袋である肺胞がその形状を保ち、ガス交換を効率的に行うことができるのは、肺胞の内側を覆うサーファクタントという界面活性物質のおかげである。

サーファクタントは、肺胞の表面にある水分子の凝集力を弱める働きをもつ。

サーファクタントがなければ、水分子が引き合うことによって肺胞の壁が内側に引き寄せられる。肺胞は形状を保つことができなくなり、つぶれてしまう。

サーファクタントは肺胞中のマクロファージによって分解され、増えすぎることなく適切な数が保たれる。

サーファクタントの不足は、呼吸窮迫症候群という呼吸器疾患の原因となる。この場合、人工サーファクタントを注入することが必要となる。

肺におけるガス交換

肺は、吸い込んだ空気中の酸素を血液に渡し、代わりに血液から二酸化炭素を受け取って体外に排出するガス交換を行う。

二酸化炭素を多く含む肺動脈の静脈血は、肺胞で酸素と交換される。

吸気として呼吸細気管支から送られた空気が、袋状の肺胞に入る。そして、空気中の酸素は、肺胞を取り巻いている毛細血管から血液中に入る。

血液は酸素を受け取ると、代わりに老廃物である二酸化炭素を肺胞の中に放出する。

肺胞に放出された二酸化炭素は、呼気として体外に排出される。

酸素を受け取った血液は動脈血として肺静脈を通って心臓に戻り、再び全身に酸素を運ぶ。

人工心肺

記事の冒頭で紹介した通り、人工心肺は、心臓や肺の機能を代行する装置である。

人工心肺では、心臓の役割をする「ポンプ」と、肺の役割をする「人工肺」を使用して、人工的に呼吸と循環を行う。

ここでは人工心肺の例として、ECMOについてまとめる。

ECMO(体外式膜型人工肺)


画像引用元:Wikipedia

ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)は、人工肺とポンプを用いた体外循環による治療、そしてその治療を行う装置である。

心臓や肺の機能が低下して人工呼吸器でも肺に酸素を取り込めなくなった場合に、一時的に人工的に対外循環を行うために使用する。

重度の呼吸不全となった状態、例えば、新型コロナウイルス感染症により重度の呼吸不全となった患者に対する治療としても知られる。

ECMOは体内に埋め込んで半永久的に使用する人工臓器ではなく、あくまで一時的に呼吸、循環の代行を行う治療法である。

ECMOの原理

①脱血

血管にカニューレ(管)を挿入し、1分間に3~5Lの血液を体外に出す。

カニューレは、挿入性・柔軟性をもたせ脱血を容易にした脱血カニューレを用いる。脱血カニューレは下大静脈、下大静脈にそれぞれ挿入する場合や、下大静脈に1本挿入する場合などがある。

②ポンプ→人工肺

脱血カニューレによって取り出された血液はリザーバに一時貯められる。そして、心臓の役割をもつ遠心型のポンプによって人工肺に送れらる。

③人工肺

人工肺では、生体肺のガス交換の機能を代行する。つまり、血液中の二酸化炭素を除去し、酸素を加える。

人工肺は熱交換器としての機能をもつ。

体温が30度くらいに下がった状態になると、代謝量が通常の5~6割となるため、供給する酸素量を少なくすることができる。人工肺には冷却機能が組み込まれており、血液を冷却することによって体温が下がった状態にする。

③送血

ガス交換を行った血液を、送血カニューレから体内に戻す。送血カニューレは大動脈に挿入される。

人工肺と送血カニューレの間には、動脈フィルターと呼ばれる装置がある。動脈フィルターでは、血液が固まった血栓や混入した気泡などの異物を取り除く。

ECMOの種類

ECMOは、主に以下の2種類に分類される。

  • V-A ECMO(Veno-Arterial ECMO)
  • V-V ECMO(Veno-Venous ECMO)

V-A ECMO(Veno-Arterial ECMO)

V-A ECMOは静脈から脱血し、人工肺で酸素を加えた血液を動脈に送血する。

循環器不全、循環器不全を合併した呼吸不全に用いられる。

V-V ECMO(Veno-Venous ECMO)

V-V ECMOは静脈から脱血し、人工肺で酸素を加えた血液を静脈に送血する。

全身に血液を巡らせる機能は心臓に依存するため、循環補助を必要としない重度呼吸不全に用いられる。

参照

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