半導体

レジスト関連明細書の自力翻訳(”defining high resolution circuitry”、”radiation flux”)

自力翻訳した以下の明細書について記事を書きます。

Pub. No. US 2013/0260313 A1
PHOTOACID GENERATING POLYMERS CONTAINING AURETHANE LINKAGE FOR LTHOGRAPHY

今回は、”defining high resolution circuitry“と、”radiation flux“についてです。

“defining.. circuitry”と”radiation flux”

“defining high resolution circuitry”

The patterning of radiation sensitive polymeric films with high energy radiation flux such as photons, electrons, or ion beams is the principle means of defining high resolution circuitry found in semiconductor devices.

自分訳:光子、電子、又はイオンビームなどの高エネルギー放射線束による放射線感応性ポリマー膜のパターニングは、半導体デバイスで見られる高解像度回路を形成する主な手段である。

上記は、ひと通り自力翻訳を終えた時点での訳文です。

まず取り上げるのは、”defining high resolution circuitry”です。「形成する」とした上でコメントを残す予定でした。

といっても、原文を読んで最初に思い浮かんだのは「形成する」ではなく、以下の訳語でした。

・高解像度回路を画定する
・高解像度を定義する

高解像度回路を画定する

最初に、ラインを形成する(線を引く)というイメージで、「画定する」ではないかと考えました。

しかし「高解像度回路を画定する」という日本語がしっくりこないため、他の訳語を検討しました。

高解像度回路を画定する

次に、「定義する」も考えました。

いま振り返れば、この訳語が候補として出てくること自体おかしいのですが、自力翻訳時は、最後の最後までこの訳語ではないかと考えていました。

なぜ、「定義する」を訳語候補として考えたのか?

それは、

“define”といえば「定義する」である可能性が高いだろうという決めつけがあった + 「パターンを定義」や「回路を定義」というフレーズで検索してヒットがあったから

という理由です。

例えば、以下のように。

https://patents.google.com/patent/JP4896292B2/ja
https://hilelectronic.com/ja/pcb-manufacturing-process/
http://skomo.o.oo7.jp/f10/hp10_3/hp10_3.htm

しかし「高解像度回路を定義する」という表現にも、どうも違和感がありました。

それに、上に挙げたリンク先で使用されている「回路(もしくはパターン)を定義する」というのは、今回の原文とは異なる文脈で用いられています。

高解像度回路を形成する

最終的に、「日本語だけで考えれば最もしっくりくるのは形成するでは?」と思い至り、そこからdefineとのつながりを考えました。

「回路設計工程で設計した回路を基板上に明確化する、具現化する = 回路を形成する」と考えれば、defineが使用されていることに納得できます。

なぜ自力翻訳時に、瞬時にこの訳語に辿り着けなかったのか疑問ですが、自力翻訳時は「定義する」を最終的な訳語の候補として延々と調べていたのです。

自分の調査のやり方、深さが、大きな誤訳を招く可能性のあるものであったことが分かります。

“radiation flux”

次に、”radiation flux”です。もう一度原文と訳文を載せます。

The patterning of radiation sensitive polymeric films with high energy radiation flux such as photons, electrons, or ion beams is the principle means of defining high resolution circuitry found in semiconductor devices.

自分訳:光子、電子、又はイオンビームなどの高エネルギー放射線束による放射線感応性ポリマー膜のパターニングは、半導体デバイスで見られる高解像度回路を形成する主な手段である。

原文を読んだときm、「なぜ”high energy radiation flux”なのか?”high energy radiation(高エネルギー放射線)”ではないのか?」と感じました。

しかし、自力翻訳時の私は、単に「radiation(放射線)」に「flux(束)」を足すような感覚で「放射線束」と訳し、自分を納得させました。

「束」がついているから、ある方向(ベクトル)をもって放射線が進んでいる様子を表しているんだろう、とだけ考え、他の訳語を検討しませんでした。

その後、見直し時に以下のように変更しました。

自分訳:光子、電子、又はイオンビームなどの高エネルギー放射線フラックスによる放射線感応性ポリマー膜のパターニングは、半導体デバイスで見られる高解像度回路を形成する主な手段である。

「高エネルギーの放射線」そのものというより、「高エネルギーの放射線流量(フラックス)」によるパターニングを指している可能性を考えたためです。

…ただ、ここまでブログを書いていてようやく気が付いたのですが、そもそも”high energy radiation flux”の例として、”photons, electrons, or ion beams”が挙げられているのです。

したがって、「高エネルギー放射線流量(フラックス)」=”photons, electrons, or ion beams”となり、不自然です(次元が異なるため)。

やはり「高エネルギー放射線束」として、コメントをつけるのが好ましいというのが現時点での考えです。

自分訳:光子、電子、又はイオンビームなどの高エネルギー放射線束による放射線感応性ポリマー膜のパターニングは、半導体デバイスで見られる高解像度回路を形成する主な手段である。

自力翻訳時に、ここまで考えて訳出できていません。ほぼ「置き換えモード」で翻訳していたことが分かります。

まとめ

訳語を決定するまでの思考の流れを記事にまとめてみると、上記のように自分をビンタしたくなるような思考パターンがみられました。

「辞書で一番にくる訳語だから」、「フレーズで検索したらヒットしたから」という、まるで初学者のような考え方から未だに抜け切れていないことが分かります。

改善のための取り組みとして、以下を意識することとします。

・訳語選定に悩む用語がある場合、日本語であれば、何を補充すれば最も自然かを考える→その用語と原語とのつながりを調査する

・いきなりフレーズ検索しない。訳語を予測してから検索する

・検索時に選定するワードを、その分野に応じたものにする

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