半導体

レジスト関連明細書の自力翻訳(”topographical patterned layer”とは?)

自力翻訳した以下の明細書について記事を書きます。

Pub. No. US 2013/0260313 A1
PHOTOACID GENERATING POLYMERS CONTAINING AURETHANE LINKAGE FOR LTHOGRAPHY

管理人さん、前回のブログをビデオセミナーで取り上げて頂きありがとうございます。

今回は、コメント頂いた内容も踏まえながら、”topographical patterned layer“についてまとめます。

このフレーズが登場する少し前の文から取り上げます。文中の上記のフレーズ以外の部分については、別の記事で考察します。

topographical patterned layer

Most of the current positive-tone photoresist compositions comprise aqueous base soluble functional groups that are sufficiently protected with acid sensitive groups (e.g., esters capable of being cleaved by a strong acid to produce a carboxylic acid) such that the photoresist layer initially will not dissolve in an aqueous base developer. During exposure to radiation, a photoacid generator (PAG) present in the photoresist layer produces strong acid, which then catalyzes the removal of the acid sensitive groups on heating in a post-exposure bake (PEB). This process produces aqueous base soluble material in the exposed area, which is removed during development with a basic aqueous developer, thereby producing topographical patterned layers.

自分訳:現在のポジ型フォトレジスト組成物のほとんどは、当該フォトレジストの層が最初のうちは水性塩基現像液中で溶解しないように、酸感応性基(例えば、強酸により分解されカルボン酸を生成可能なエステル)で十分に保護された塩基性水溶液可溶性の官能基を含む。放射線への露光中に、フォトレジスト層中に存在する光酸発生剤(PAG)が強酸を生成し、次いでこの強酸は、露光後ベーク(PEB)にて加熱すると酸感応性基の脱離を触媒する。このプロセスによって塩基性水溶液に可溶な物質が露光領域中に生成され、この物質は水性塩基現像液による現像中に除去され、それによってトポグラフィカルパターニングされた層が形成される。

上記は、ひと通り自力翻訳を終えた時点での訳です。

以下の図を描きました。

原理を簡単にまとめると、

光酸発生剤(PAG)が光を受けて酸を生成し、その酸が触媒となってポリマーの保護基(光酸感応性基)が脱離し、光酸感応性基で保護されていた現像液可溶性基(-COOH)がむき出し状態となるため、露光部のみ現像液で除去されるのです。

今回の特許の肝は、光酸発生剤(PAG)がもともとポリマーに共有結合しているので、他の成分として添加する場合と比べて酸が光酸感応性基と反応しやすいという点です。

“topographical patterned layers”は、「トポグラフィカルパターニングされた層」と訳しました。

その他、「凹凸のあるパターニングされた層」という訳語も候補としてありました。

しかし、これまでに読んだ半導体分野の資料や明細書により「トポグラフィー」という語になじみがありました。

例えば以下のサイトには、ウエハなど基板の凹凸を表すものとして「トポグラフィー」が使用されています。

https://www.kobelcokaken.co.jp/leo/item/sbw/

https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/industrial/manufacturing-processing/manufacturing-processing-learning-center/electronics-information/semiconductor-analysis-imaging-metrology-information/semiconductor-fabrication-overview.html

上記から、「凹凸のある」という訳語を候補から外しました。

問題点は何か?

最大の問題点は、ビデオセミナーで取り上げられなければ、この訳語にコメントをつけようとすら考えていなかったことです。

さらに、なぜ「topographically patterned layers」ではなく「topographical patterned layers」であるのかということにも引っ掛かりませんでした。

私の訳語決定までの思考は

「topographical」は、「トポグラフィーの」という意味だろうか。しかしそうすると「patterned layers」をどう訳すか?

調べると「トポグラフィカル」という語も使用されているな

「topographical patterned」だから「トポグラフィカルパターニングされた」とすれば、層に凹凸が形成されたのだと通じるだろうし、誤訳にはならないだろう。

という、自分主体の何ともいい加減なものでした。時間をかけたにもかかわらず、結局は弱い根拠で訳語を「当てた」のです。

そもそも「トポグラフィー」とは?

「トポグラフィー = 凹凸」と考えていたことも良くなかったです。

例えば、半導体において「X線トポグラフィー解析」というのは、調べてみると、3次元形状のデータを表し結晶内欠陥を評価するための手法であるようです(例えば、以下参照)。

https://www.jeol.co.jp/words/emterms/20121023.074458.html#gsc.tab=0

https://www.nstec.nipponsteel.com/technology/physical-analysis/structural/structural_03_xrt.html

上記のように、凹凸に均一性がないなど、結晶欠陥をもつ表面形状を意味する場合にも「トポグラフィー」というのではないでしょうか。

この意味の場合、「トポグラフィー」は最小限であることが好まれます。

したがって「トポグラフィー」とは、確かに基板上の凹凸を表す言葉でもありますが、単なる「凹凸」より広い概念であると理解するべきでした。

そうすると、上記の原文の場合は、むしろ上記のような広い概念を含む「トポグラフィー」とせずに「凹凸のある」と訳し、その上でコメントをつけても良いと考えます。

This process produces aqueous base soluble material in the exposed area, which is removed during development with a basic aqueous developer, thereby producing topographical patterned layers.

このプロセスによって塩基性水溶液に可溶な物質が露光領域中に生成され、この物質は水性塩基現像液による現像中に除去され、それによって凹凸のあるパターニングされた層が形成される。

まとめ

ここまで調べた上で訳語を決定できていなかったのですから、単に「当てただけ」と言われても仕方ありません。

仮に、最終的に「トポグラフィカルパターニングされた」と訳すことを決めたとしても、広がりと深さをもって検討した結果であれば、適切にコメントをつけられるはずです。

ビデオセミナーで話があった通り、「違和感を感じるフィルターの網目が大きければ、引っ掛からるべきことが引っ掛からない」ということです。

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