慢性C型肝炎 免疫療法の対訳学習(”response”について)
前回に引き続き、自力翻訳した以下の明細書について記事を書きます。
【公表番号】特表2012-503011(P2012-503011A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【発明の名称】慢性C型肝炎ウイルス感染の免疫療法
今回は、”response”の訳出についてまとめます。
- “response”の訳し分け
- 公開訳と比較
- Sustained Virologic Response (SVR)
- the rate of early response to therapy
- early predictor of response to therapy
- patient’s response
- respond to regimen
- expected response for patients
- CD4+ and CD8+ T cell responses
- fail to respond or sustain response to therapy
- rapid virologic responses (RVR), early virologic responses (EVR/cEVR)
- complete response/preserved response
- virologic response
- response to dsRNA
- respond to the adaptive immune response
- まとめ
“response”の訳し分け
今回の明細書で、私は“response”に対して以下のような訳語を当てました。
- 奏効(例:早期の治療奏効率、完全奏効、レジメンで奏効する)
- 著効(例:ウイルス学的著効(SVR))
- 効果(例:治療効果の早期予測因子)
- 応答(例:T細胞応答)
- 反応(例:標準治療に対する平均的な患者の反応)
- 陰性化(例:ウイルス学的早期陰性化(EVR))
一方、公開訳は以下のようでした。
- 著効(例:完全著効)
- 反応(「著効」と訳出したもの以外、全て)
公開訳は、どうしても訳し分けが必要である場合(この明細書では「著効」としなくてはならない場合)を除き、日本語としてやや不自然でも「反応」で統一しているのでしょうか?
あるいは、公開訳の通り「反応」が好ましいのにも関わらず、私が誤った訳し分けをしているのでしょうか。
公開訳と比較しながら、どのような理由で上記のように訳し分けたのかを書きます。
公開訳と比較
Sustained Virologic Response (SVR)
While interferon/ribavirin therapy is relatively efficacious in patients suffering from genotype 2 or 3 HCV infection (85% of patients reach Sustained Virologic Response (SVR)), about 50% of patients infected with genotype 1 HCV do not reach SVR.
公開訳:インターフェロン/リバビリン療法は、遺伝子型2又は3のHCV感染に罹患している患者で比較的有効である(患者の約85%が持続的ウイルス学的反応(SVR)に達する)が、遺伝子型1のHCVに感染している患者のうち約50%がSVRに達しない。
自分訳:インターフェロン/リバビリン療法は、遺伝子型2または遺伝子型3のHCV感染に罹患している患者では比較的有効である(患者の85%はウイルス学的著効(SVR)に達する)が、遺伝子型1のHCVに感染している患者の約50%はSVRに達しない。
“Sustained Virologic Response”に対して、私は「ウイルス学的著効」と訳出しました。
学会サイト、PMDAサイト等で多くヒットする日本語訳だからです。
一方、公開訳は「持続的ウイルス学的反応」と訳出しています。
公開訳は、”response”に対して「反応」で統一させている印象を受けました。
同じ語に対しては訳語を統一するようにという依頼のもとで「持続的ウイルス学的反応」としているのでしょうか。
the rate of early response to therapy
The compositions, kits and uses of the invention, as compared to the use of SOC therapy alone: improves the rate of early response to therapy as measured by early virologic markers (e.g., RVR and EVR), enlarges the pool of patients who will have sustained responses to therapy over the long term, offers shortened courses of therapy for certain patients, enables “rescue” of patients who are non-responders or intolerant to SOC therapy, improves liver function and/or reduces liver damage in patients, and enables the personalization of HCV therapy for a patient, which can result in dose sparing, improved patient compliance, reduced side effects, and improved long term therapeutic outcomes.
公開訳:本発明の組成物、キット及び使用は、SOC療法単独の使用と比べて:早期ウイルス学的マーカーにより測定される療法に対する初期反応率(例えば、RVR及びEVR)を改善し、長期にわたって療法に対して反応が持続するであろう患者のプールを増大させ、ある患者については療法のコースを短縮し、SOC療法に対して無反応者又は不耐性である患者の「救済」を可能にし、患者における肝機能の改善及び/又は肝障害の軽減をもたらし、患者においてHCV療法の個別化を可能にして、その結果、投与量を減らし、患者のコンプライアンスを改善し、副作用を軽減して、長期治療転帰を改善することができる。
自分訳:本発明の組成物、キットおよび使用は、SOC療法単独の使用と比較して:早期ウイルス学的マーカー(例えば、RVRおよびEVR)を指標とする、早期の治療奏効率を改善し、治療効果が長期的に持続する患者集団を拡大し、特定の患者の治療期間を短縮し、SOC療法の無効例か不耐容例である患者の「レスキュー」を可能にし、患者における肝機能を改善および/または肝損傷を軽減し、患者に対するHCV療法の個別化を可能にして、その結果、投与量を減量し、患者の服薬遵守を改善し、副作用を軽減し、長期的な治療成績を改善することができる。
“the rate of early response to therapy”に対する訳出は、かなり悩みました。
・治療に対する早期陰性化率
・早期治療効果率
・治療に対する早期反応率
公開訳の「初期反応率」は、化学反応で使うような表現だと感じました。しかし、検索すると「治療に対する反応(または反応率)」というフレーズもヒットします。
「治療奏効率」は、治療効果がみられた患者の割合を表すのに適していると考えますが、どうでしょうか。
early predictor of response to therapy
Viral levels in the peripheral blood early during the course of interferon (IFN) therapy have served as an early predictor of response to therapy due to the fact that they can be measured easily and have been correlated to other more meaningful endpoints in the setting of long-term IFN treatment, such as Sustained Virologic Response (SVR, defined as negative peripheral viral levels for at least 6 months after the completion of IFN-based therapy).
公開訳:インターフェロン(IFN)療法のコースの初期の間、末梢血のウイルス濃度は、それらが容易に測定できるという事実に起因して、治療に対する反応の早期の予測因子として機能し、且つ長期IFN療法の状況で他のさらに重要なエンドポイント、例えば、持続的ウイルス学的反応(IFNベースの治療の終了後少なくとも6カ月間の陰性の末梢ウイルス濃度として定義される、SVR)と相関している。
自分訳:インターフェロン(IFN)療法期間の早期における末梢血中のウイルス量は、治療効果の早期予測因子として機能しており、これは、末梢血中のウイルス量が容易に測定できるものであり、かつ長期的なIFN治療では、ウイルス学的著効(SVR、IFNベース療法終了から少なくとも6カ月間、末梢血中ウイルス量が陰性であると定義される)などの他のより重要な評価項目と相関しているという事実によるものである。
“an early predictor of response to therapy”についてです。
“response to therapy”に対して、私は「治療効果」、公開訳は「治療に対する反応」と訳出しています。
「治療効果」と「治療に対する反応」
「治療効果」と「治療に対する反応」を比較します。
「治療効果」
「治療効果」は、ただの「結果」というよりは、「良い結果」という意味合いを含んでいるように思います。
治療によってウイルス量陰性化などの改善がみられるか、つまり「治療により、良い結果がみられる」という意味であると考えます。
「治療に対する反応」
一方、「治療に対する反応」は、治療に対してどのような変化がみられるかということでしょうか。「いい結果」という意味合いは含まない、フラットなイメージです。
ウイルス量は、治療に対する良い結果を表すものというより、治療に対する患者における変化を示すものなので、比較してみると「治療に対する反応」の方が好ましいと感じます。
patient’s response
Patients are categorized by their response at these virologic endpoints.
公開訳:患者は、これらのウイルス学的エンドポイントにおける反応によって分類される。
自分訳:患者は、これらのウイルス学的評価項目における治療効果別に分類される。
私は、原文にはない「治療」を勝手に補って「治療効果」と訳出していますが、改めてみると余計な補いであると思います。
しかし、この一文も先ほど挙げた文と同じく「反応」で良いと考えます。
respond to regimen
These patients have a 20-30% chance of responding to a more aggressive regimen.
公開訳:これらの患者は、さらに積極的なレジメンに対して20~30%の確率で反応する。
自分訳:これらの患者では、より積極的なレジメンで奏効する見込みは20~30%である。
「レジメンに対して反応する」は、日本語としてやや不自然であると感じたのですが、「レジメンに反応する」というフレーズで検索するとヒットします。
先ほどからの例文の流れに合わせるなら、「奏効する」より「反応する」の方が良いのでしょうか?
expected response for patients
For example, of patients with chronic hepatitis C infection (genotype 1) receiving the SOC therapy of pegylated interferon-α2 (PEGAS YS® (Peginterferon alfa-2a; Roche Pharmaceuticals)) plus ribavirin, Table 2 shows the typical expected response for these patients.
公開訳:例えば、ペグ化インターフェロンα2(PEGASYS(登録商標)(ペグインターフェロンα-2a、ロシュ・ファーマシューティカルズ社(Roche Pharmaceuticals)))に加えてリバビリンというSOC治療を受けている慢性C型肝炎感染(遺伝子型1)を有する患者のうち、表2は、これらの患者に典型的に予測される反応を示す。
自分訳:例えば、ペグ化インターフェロン-α2(PEGAS YS(登録商標)(ペグインターフェロンアルファ-2a、Roche Pharmaceuticals社)とリバビリンによるSOCを受けている慢性C型肝炎感染患者(遺伝子型1)について、表2では、これらの患者で一般的に予想される効果を示す。
こちらも、これまでに挙げた文と同じ考え方で「反応」とする方が良いのでしょうか。
CD4+ and CD8+ T cell responses
Studies of humans and chimpanzees have revealed that HCV can replicate for weeks before the onset of CD4+ and CD8+ T cell responses can be detected in the liver and in the blood.
公開訳:ヒト及びチンパンジーでの研究によれば、HCVはCD4+及びCD8+T細胞反応の発生が肝臓及び血液において検出される前に数週間にわたって複製可能であることが明らかになっている。
自分訳:ヒトおよびチンパンジーの研究により、CD4+およびCD8+T細胞応答の開始が肝臓や血液中で検出可能になるまでの数週間、HCVが複製することができることが明らかにされた。
“T cell response”には「T細胞反応」ではなく「T細胞応答」という訳語を当てたいです。
これまでにあらゆる資料を読みましたが、T細胞が抗原に「応答」して、「活性化」され、「分化・増殖」するという表現が使われています。
fail to respond or sustain response to therapy
While SOC provides the best current treatment for patients chronically infected with HCV, the significant adverse effects of this regimen that can lead to noncompliance, dose reduction, and treatment discontinuation, combined with the percentage of patients who still fail to respond or sustain response to therapy, leaves opportunities for novel therapeutic treatments for HCV.
公開訳:SOCは、HCVに慢性的に感染した患者に現在最高の治療を与えるものであるが、治療に対して反応できず、あるいは反応を維持できないままである患者の割合に伴う、ノンコンプライアンス、用量減少及び治療中断をもたらし得るこのレジメンの重大な有害作用によって、HCVに対する新規な治療処置の余地が残る。
自分訳:SOCは、HCV慢性感染患者に対して現在では最良の治療を提供するが、このレジメンの重要かつ有害な影響により、服薬不遵守、投与量の減量、および投与中止をもたらし得ること、そして依然として治療が無効であるか治療効果が持続しない患者の割合を合わせて考慮すると、HCVに対する新規の治療的処置のための機会が残されている。
先に挙げた例文の流れに合わせるなら、「治療効果を持続する」より公開訳の「治療に対する反応を維持する」の方が良いのでしょうか。
“fail to respond to therapy”は「治療が無効になる」や「治療効果がみられない」が自然であると考えるのですが、どうでしょうか。
rapid virologic responses (RVR), early virologic responses (EVR/cEVR)
Yet another embodiment of the invention relates to a method to increase the frequency of rapid virologic responses (RVR) and/or early virologic responses (EVR/cEVR) in a population of subjects chronically infected with hepatitis C virus (HCV), as compared to RVR and EVR/cEVR in a population of subjects chronically infected with HCV and treated only with combination interferon and anti-viral therapy.
公開訳:本発明のさらに別の実施形態は、慢性的にC型肝炎ウイルス(HCV)に感染した被験者の集団における急性期ウイルス学的反応(RVR)及び/又は早期ウイルス学的反応(EVR/cEVR)の頻度を、慢性的にHCVに感染し、インターフェロンと抗ウイルス剤との併用療法のみで治療された被験者の集団におけるRVR及びEVR/cEVRと比べて増加させる方法に関する。
自分訳:本発明のさらに別の実施形態は、慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染者集団におけるウイルス学的超早期陰性化(RVR)および/またはウイルス学的早期陰性化(EVR/cEVR)の頻度を、インターフェロン療法および抗ウイルス剤療法の併用のみを受ける慢性HCV感染者集団におけるRVRおよびEVR/cEVRの頻度と比較して増加させる方法に関する。
学会、病院などのサイトで多く用いられているのは以下の訳語です。
- rapid virologic response (RVR):ウイルス学的超早期陰性化(RVR)
- early virologic response (EVR):ウイルス学的早期陰性化(EVR)
これを訳語に適用すると”response”に対する訳し分けが増えるため、公開訳では「急性期ウイルス学的反応」などとしているのでしょうか。
complete response/preserved response
Indeed, at ETR (48 weeks), genotype 1 naive patients receiving the therapeutic protocol of the present invention had a higher complete response/preserved response (see Examples), as compared to the equivalent group receiving SOC alone.
公開訳:実際、ETR(48週)で、本発明の治療プロトコルを受けている遺伝子型1ナイーブ患者は、SOC単独を受けている同等の群よりも高い完全著効/維持著効を有していた(実施例を参照)。
自分訳:実際に、ETR(48週)では、本発明の治療プロトコルを受けた遺伝子型1の未治療患者は、SOC単独を受けた同等群と比較して高い完全奏効率/持続的奏効率(実施例を参照)を示した。
“complete response”に対して「完全反応」と訳出するのはさすがに不自然であるということで、公開訳は「完全著効」と訳出しているのでしょうか。
virologic response
Patients (140 total enrolled) were randomized 1:1, and stratified by virologic response during their prior course of treatment in this open label trial.
公開訳:患者(140の総症例)を無作為に1:1に分け、この非盲検試験における従前の治療コース中のウイルス学的反応によって階層化した。
自分訳:本非盲検試験では、患者(組み入れられた合計140例)を1:1にランダム化し、前治療期間におけるウイルス学的効果別に層別化した。
以下などを参照に「ウイルス学的効果」としました。
・ウイルス性肝疾患に関する全国規模のデータベース構築および肝炎治療の均てん化に資する研究
・PMDA ダクラタスビル塩酸塩 CTD 第2部 2.5 臨床に関する概括評価
・UMIN-CTR 臨床試験登録情報の閲覧
しかし、この一文の”virologic response”の”response”を「効果」とするなら、他の「反応」も「効果」で良いのではないでしょうか。
原文に書かれているのが”response”一語であっても、示しているのは「ウイルス学的効果」なのですから。
とすると、“Sustained Virologic Response”に対して「ウイルス学的著効」という訳語が多くヒットするとしても「持続的ウイルス学的効果」と訳出する方が良かったのでしょうか。
response to dsRNA
Type I interferons are secreted by host cells in response to abnormally large amounts of dsRNA in a cell (e.g., as a result of infection of a cell by an RNA virus, such as HCV).
公開訳:I型インターフェロンは、(例えば、HCVなどのRNAウイルスによる細胞の感染の結果としての)細胞中の異常に多量のdsRNAに反応して、宿主細胞によって分泌される。
自分訳:I型インターフェロンは、(例えば、HCVなどのRNAウイルスに細胞が感染した結果として)細胞内に異常に多く存在するdsRNAに応答して、宿主細胞によって分泌される。
先ほど挙げた文と同じですが、T細胞は抗原に「反応」するというより「応答」するという表現が好ましいと考えます。
respond to the adaptive immune response
In addition, initial monotherapy with interferon alone may enhance the later addition of immunotherapy, by activating the innate immune response and further activating antigen presenting cells to respond more readily to the adaptive immune response.
公開訳:加えて、インターフェロンのみを用いた初期単独療法は、自然免疫応答を活性化し、さらに抗原提示細胞が適応免疫応答に対してより容易に反応するように活性化することによって、後の免疫療法の追加を向上させることができる。
自分訳:さらに、インターフェロン単独による初期の単独療法では、自然免疫応答を活性化することによって、さらには抗原提示細胞を活性化してこれらの細胞がより迅速に獲得免疫応答に反応しやすくすることによって、後に追加する免疫療法を増強し得る。
「抗原提示細胞が獲得免疫応答のために迅速に対応できるように」という意味であると思うのですが、これを反映させるために”respond”に対してどういう訳語を当てるのか悩みました。
「獲得免疫応答に応答する」だと不自然であると考えて「獲得免疫応答に反応する」としたのですが、「獲得免疫に対応する」とするのが自然であるとも思います。
まとめ
今回は、”response”について公開訳と比較しました。
私は日本語としての自然さにこだわり”response”に対して様々な訳語を当てたのですが、上に挙げたような訳し分けが好ましいのか、現時点では確信を持てません。
前回の記事にも書きましたが、そもそも日本語として自然であるかどうかの判断基準がズレている可能性もあります。
直観的に「不自然だ」と感じた表現が、調べてみると権威あるサイトで使用されていることがあるからです。
ある分野では自然である表現を、自分が自然であると感じられないのは、その分野に関わる資料を多く読んでいないことが原因です。学習も調査も足りていないのです。
今回の自力翻訳のおかげで、自分に足りないものを新たに知ることができました。
特許特有の表現には慣れてきたものの訳出時に悩み時間がかかったところがあったので、改めて調べた上でオリジナル翻訳マニュアルに記載しました。
明細書特有の表現の中で、「これはどう訳出すればいいんだ?もしくは訳出しない方が良いのか?」といった疑問は、いくつかサイトをあたれば解決できました。
また、訳出時に参考にしたC型肝炎ガイドラインや臨床試験に関する資料も、改めて読みつつまとめています。
引き続き、今回の自力翻訳の明細書を使って、別の視点からブログにまとめる予定です。

