化学・物理

EUV関連明細書の対訳学習(少しだけ先読みできた話)

EUVリソグラフィ関連明細書の対訳学習

EUV(極端紫外線)リソグラフィについて、サイトや動画で調べながら基本的なことをまとめた後、関連明細書の背景技術部分のみ数十件抽出して読みました。

そして不足知識を補充しつつ日本語明細書の全体を4件読んだ後、現在は以下の明細書を使って対訳学習中です。

【公表番号】特表2021-534584(P2021-534584A)
【公表日】令和3年12月9日(2021.12.9)
【発明の名称】EUVリソグラフィのためのSnO2表面の修飾
【氏名又は名称】ラム リサーチ コーポレーション

思考停止するのを防止するため、いきなり公開訳をみるのではなく、一文ずつラフに翻訳してから公開訳を確認します。

2日間の知識補充期間にもかかわらず先読みでき、かつ内容をするっと理解できたと喜んだことがあったので、記録として残そうとこの記事を書きました。

先読みできたこと

Secondary electron generation has been found to be the primary source of photoacid generation.
二次電子の生成は、光酸生成の主な原因であることが見出されている。

SnO2 is a strong absorber of EUV light.
SnO2は、EUV光の強力な吸収剤である。

When an EUV photon is absorbed by the SnO2 a photoelectron is produced.
EUV光子がSnO2によって吸収されると、光電子が発生する。

The photoelectrons have energies between about 50 eV or lower to about 100 eV or higher and scatter in what has been observed to be random directions.
光電子は、約50eV以下~約100eV以上のエネルギーを有し、ランダムな方向に散乱することが観察されている。

As a result, some of these photoelectrons will propagate from the SnO2 layer into the photoresist layer, generating secondary electrons through ionization events along the way.
結果として、これらの光電子の一部はSnO2層からフォトレジスト層に伝播し、その途中でイオン化イベントを経て二次電子を生成する。

For any given photoelectron, several secondary electrons may be generated, which also propagate in stochastic fashion.
任意の所与の光電子に対して、いくつかの二次電子が生成される場合があり、これらも確率論的に伝播する。

As the secondary electrons propagate through from the SnO2 layer and into the photoresist, it causes ionization events in photoacid generators (PAGs).
二次電子がSnO2層からフォトレジストに伝播すると、光酸発生剤(PAG)中でイオン化イベントが発生する。

The resulting acid attacks acid-labile protecting groups (e.g., that induce insolubility of the photoresist) and typically replaces the protecting group with a hydroxide group that is soluble in an alkaline solution (e.g., a developer).
得られた酸は、酸に不安定な保護基(例えば、フォトレジストの不溶性を誘発する基)を攻撃し、典型的には、アルカリ性溶液(例えば、現像剤)に可溶なヒドロキシル基で保護基を置き換える。

Both photoelectrons and secondary electrons have a finite mean free path that depend on their energies.
光電子と二次電子の両方は、そのエネルギーに依存する有限の平均自由行程を有する。

For example, each ionization event reduces its energy until it has an energy that is low enough to be absorbed without causing an additional ionization event.
例えば、各イオン化イベントは、追加のイオン化イベントを発生させずに吸収される程度に低いエネルギーになるまで、そのエネルギーを低減する。

In certain estimates, the mean free path of secondary electrons having energies between lOeV and 100 eV is within a range of 20nm to 1 nm in photoresist.
ある推定では、10eV~100eVのエネルギーを有する二次電子の平均自由行程は、フォトレジスト内で20nm~1nmの範囲にある。

ここまで読んで、以下のように、明細書に書かれている内容が特許の肝とつながりました。

一次電子と比較して微弱なエネルギーを持つ二次電子は、フォトレジスト内をわずかにしか進まない。

つまり、SnO2層とレジスト層との距離はなるべく近い方が良いし、層も薄い方が良い。

層を薄くするには、SnO2膜とレジスト層の間に接着剤の介在層を入れない方がいい

だから今回の発明では、粘着層を介在させなくていいようにSnO2層に疎水性を与えてレジスト層との接着性を付与することによって、薄膜化することがポイントなのだ

補足すると、フォトレジストを現像液に可溶化する光酸が発生するメカニズムとして、以下のような、EUVによる光電子の生成があります。

  • 光電子(一次電子)がSnO2層からフォトレジスト層へ散乱→その過程でフォトレジスト層内の分子に衝突してイオン化させる→二次電子発生→二次電子が光酸発生剤と相互作用し酸(H+など)が発生
  • SnO2層の光電子が他の分子に衝突して二次電子発生→二次電子がフォトレジスト層に移動し、フォトレジスト層の光酸発生剤と相互作用し酸(H+など)が発生

光酸によって、フォトレジストに不溶性を与えているポリマー内の保護基(酸不安定基)が取り除かれます。これを脱保護といいます。

そのため、露光部はアルカリ現像液に可溶化します(ポジ型のレジストの場合)。

つまり、露光後、現像した際に非露光部との境界線をはっきりさせるためには、光酸を発生させる必要があるということです。

現像時に露光部がちゃんと除去されないと、パターンのエッジがギザギザになったり(Line Edge Roughness)、ライン幅が揺らいだり(Line Width Variation)といった欠陥の原因になります。

光酸を発生させるためには、上記のような光電子による反応を起こす必要があります。

まとめ

今回ほど「なるほどー!」と納得しながら読めた経験はこれまで少なかったため嬉しくなり、勢いでブログを書きました。

記事の初めに「2日間の知識補充期間にもかかわらず先読みできた、理解できた」と書きました。

これは、仕事であれば当然のことであり、喜ぶことでもありません。

しかしこれまで、長い時間をかけて学習してようやく1件の明細書を何とか読めるようになる…というレベルだったことを思うと、成長したと感じるのです。

引き続き対訳学習を進めます。数件やって、その後は自力翻訳する予定です。

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