ここ数日、風邪の症状(鼻水垂れ流し、喉の腫れ、咳、くしゃみ)により、首から上が辛かったです(^^;)
鼻の穴に栓をして(ティッシュを詰め込んで)勉強していました。
さて、以下の明細書の自力翻訳と、公開訳との比較が終わりました。
【出願番号】US2021/050519
【出願日】20210915
【発明の名称】ULTRA-THIN, ULTRA-LOW DENSITY FILMS FOR EUV LITHOGRAPHY
合計ワード数:7838w
先日の記事と同じく、以下の項目に分けて公開訳と自分訳を比較します。
- 公開訳に対して気になったところ
- 自分のミス&改善点
- 疑問点
その前に、翻訳スピードと、見直しに要した時間をまとめます。
翻訳と見直しについて
1時間ごとの翻訳ワード数を計測しました。その結果、1日ごとの翻訳ワード数は以下のようになりました。
・翻訳に要した合計時間:24h
見直し
見直しに要した時間は、以下のようになりました。
- 作業期間:11/3~4
- Word上で見直し + memoQのQA機能:7h50m
- Just Right!7上での見直し:1h
公開訳と自分訳の比較
以下の項目ごとに公開訳と自分訳を比較します。
- 公開訳に対して気になったところ
- 自分のミス&改善点
- 疑問点
公開訳に対して気になったところ
平均透過率
At one end, an areal density of 0.62 μg/cm2 results in an average 550 nm wavelength transmissivity value of 93.833%.
公開訳:一端において、面密度0.62μg/cm2は、平均550nm波長における透過率値93.833%となる。
自分訳:一端では、面密度が0.62μg/cm2で、550nm波長の平均透過率の値が93.833%の結果となる。
以下の図に関する一文です。
※図は本特許の【図4】から引用
公開訳では波長の平均が550nmであると受け取りましたが、図を見ると波長は一定で550nmであり、その波長でのあらゆる面密度での透過率を示しているものと考えます。
sustain
The pellicles may sustain any desired pressure changes surrounding their environment, including, but not limited to, an EUV lithography scanner environment.
公開訳:ペリクルは、その環境(たとえば、限定することなく、EUVリソグラフィスキャナ環境)を囲む任意の所望の圧力変化を維持し得る。
自分訳:ペリクルは、それらが存在する環境、例えば限定されないが、EUVリソグラフィスキャナ環境の周辺における、あらゆる所望の圧力変化に耐え得る。
ペリクルが、リソグラフィ装置内の圧力変化を維持するということに違和感があります。
リソグラフィ環境における様々な環境で、ペリクルが劣化してしまうことが課題となっています。今回の特許は、リソグラフィ環境で十分な機械的強度を持つペリクルに関するものです。
したがって、この一文の”sustain”に対する日本語訳は「耐える」ではないかと考えます。
features
It enables semiconductor microchip manufacturers to pattern the most sophisticated features at 7 nm resolution and beyond and put many more transistors without increasing the size of the required space.
公開訳:これにより、半導体マイクロチップ製造業者は、7nm以下の解像度でほとんどの精巧な特徴部をパターニングして、必要なスペースのサイズを増加させることなくさらに多くのトランジスタを配置することができる。
自分訳:これは、半導体マイクロチップ製造業者が解像度7nm以上の最も緻密なフィーチャをパターニングすること、かつ必要な空間サイズを増加させずにより多くのトランジスタを配置することを可能にする。
半導体分野で「デバイスのfeaturesをパターニングする」というと、「フィーチャ」の方が好ましいかと考えます。
beyond
The filtration formed CNT pellicle film exhibits a high EUV transmission rate generally above 92%, with results above 95% or beyond 98% in some instances.
公開訳:濾過形成されたCNTペリクルフィルムは、全般的に92%を超える高いEUV透過率を示し、場合によっては95%超または98%未満の結果であった。
自分訳:濾過形成されたCNTペリクル膜は、概して92%超の高いEUV透過率を示し、場合によっては95%超または98%超の結果となる。
「98%未満」ではなく、「98%を超えて」であると考えます。
may
Such photomasks may be commonly used in photolithography and the production of integrated circuits.
公開訳:このようなフォトマスクは、フォトリソグラフィ及び集積回路の製造において広く用いられている場合がある。
自分訳:そのようなフォトマスクは、光リソグラフィおよび集積回路製造において一般的に使用することができる。
気になったところが、ここで使用されているmayに対し「場合がある」という訳です。
「場合がある」だと、「用いられている場合と、用いられていない場合がある」とも受け取ってしまうのは自分だけでしょうか。
自分のミス&改善点
7 nm resolution and beyond
It enables semiconductor microchip manufacturers to pattern the most sophisticated features at 7 nm resolution and beyond and put many more transistors without increasing the size of the required space.
公開訳:これにより、半導体マイクロチップ製造業者は、7nm以下の解像度でほとんどの精巧な特徴部をパターニングして、必要なスペースのサイズを増加させることなくさらに多くのトランジスタを配置することができる。
自分訳:これは、半導体マイクロチップ製造業者が解像度7nm以上の最も緻密なフィーチャをパターニングすること、かつ必要な空間サイズを増加させずにより多くのトランジスタを配置することを可能にする。
この一文は、解像度(resolution)に関するものです。
半導体における「解像度」とは、露光装置の露光の解像度を指します。解像度を上げると、より緻密なパターニングが可能となります。
ちなみに、解像度の計算式と解像度を上げる条件は以下の通りです。
R(分解能)= k1(プロセス係数)× λ(波長)/ NA(開口数)
・波長を短くする
・プロセス係数を小さくする
・開口数が大きい
上記の式と条件から分かるように、「解像度を上げる」とは、実際のところ解像度を表す数値を「小さくする」ことです。
また、半導体の技術世代を表す用語として、「プロセスノード」があります。
7nmなら「7nmノード」「7nm世代」などと呼ばれていて、7nmよりも微細化することに対して「7nm以下のノード」「7nm以降のノード」という表現もあります。
ただ、調べるとノードの数字と実際の寸法は、かなりかけ離れているようです(以下の記事などを参照させていただきました)。
https://trs-ch.blog/post-3824/
したがって、公開訳の「7nm以下の解像度」の方が好ましく、「解像度7nm以上」としている私の訳は好ましくないと考えます。
“and beyond”から、機械的に「以上」という訳を当てたことが原因のミスです。
thatの係り受け
A photomask is protected from particles by a pellicle, a thin transparent film stretched over a frame that is attached over the patterned side of the photomask.
公開訳:フォトマスクは、ペリクル(フォトマスクのパターニングされた側面を覆って取り付けられたフレーム上で伸ばされる薄い透明フィルム)によって粒子から保護される。
自分訳:フォトマスクは、枠上に張られた透明な薄膜であるペリクルによって粒子から保護され、ペリクルは、フォトマスクのパターン形成側面を覆うように取り付けられている。
that 以降が、”a frame”ではなく”a pellicle”に対するものであると解釈したミスです。
“attached over”から勝手に「覆うように取り付けられる」というイメージを持ち、それならフレーム(a frame)ではなくペリクル自体だろうと思い込んだのが原因です。
しかし、ではなく単にフォトマスクの上部に取り付けられている(attached over)だけのことです。
“over”を”cover”のように連想したことによるミスです。
基本的な用語に対してきちんと調べることを怠った結果、誤った思い込みによるミスにつながりました。
対策として、以下を購入していつでも調べられるよう手元に持っておくこととしました。
疑問点
歪み or たわみ
According to another aspect of the present disclosure, the network has a deflection of less than 0.1 mm under a flow rate of 3.5 mbar/second.
公開訳:本開示の別の態様により、ネットワークは、歪みが3.5mbar/秒の流量下で0.1mm未満である。
自分訳:本開示の別の態様によると、3.5mbar/秒の流量での網目構造体のたわみは0.1未満である。
ペリクル中心領域に対して、垂直から不活性ガスを適用して、ペリクルのdeflectionを調べた試験に関する一文です。
ペリクルは、フレームに張られた状態から、その中心部に垂直方向からガスを受けて、弓なりにたわんでいるものと考えます。
このようなイメージです↓
一方、「歪み」には、本来の形から縦方向か横方向に伸びたり縮んだりする縦ひずみや横ひずみ、またせん断ひずみや圧縮ひずみがあります。
縦ひずみと横ひずみは、このようなイメージです↓
したがって、「歪み」よりは「たわみ」の方が好ましいのかと考えました。
しかし、ガス圧力を受けて、中心部が上に上がり、結果として縦に歪んだり、厚みが縮んだりすることを言っているのだろうか?
・・と、自分の調査に自信が持てない部分もあります。
透過成分が捕捉される?
The size and shape of the resulting membrane are determined by the size and shape of the desired filtration area of the filter, while the thickness and density of the membrane are determined by the quantity of nanotube material utilized during the process and the permeability of the filtration membrane to the ingredients of the input material, as the permeable ingredient is captured on the surface of the filter.
公開訳:結果として生じる膜のサイズ及び形状は、濾過器の所望の濾過面積のサイズ及び形状によって決定され、一方で、膜の厚さ及び密度は、プロセス中に用いるナノチューブ材料の数量と入力材料の成分に対する濾過膜の透過度とによって決定される。なぜならば、透過成分は濾過器の表面上に捕捉されるからである。
自分訳:得られた膜のサイズおよび形状は、濾過器の所望の濾過面積のサイズおよび形状によって決定されるが、膜の厚さおよび密度は、処理中に用いられたナノチューブ材料の量と、投入材料の成分に対する濾過膜の透過性によって決定される(透過性成分が濾過器表面上に捕捉されるため)。
この一文は、公開訳に対する疑問ではなく、原文の内容自体に関する疑問です。
太字部分”as the permeable ingredient is captured on the surface of the filter”は、permeable ingredientが、”surface of the filter”上に”captured”されると言っています。
つまり、「透過性のある成分はフィルター表面上に捕捉される」ということですよね。
しかし、濾過では、フィルターの網目よりも大きい物質を捕捉するのではないでしょうか。
つまり「不透過性(impermeable)成分はフィルター表面上に捕捉される」ではないのか…?と考えたのですが、どうなのでしょうか。
その後、以下の一文があります。
The selected filter is generally not permeable to any CNTs.
この一文からも、「CNTはフィルターに対して透過性ではない→フィルター上に捕捉される」と考えています。
接続 or 連結
More specifically, carbon nanofibers may become intersected randomly to form an interconnected network structure in a planar orientation to form the thin CNT film.
公開訳:より具体的には、カーボンナノファイバはランダムに交差されて、相互接続されたネットワーク構造を平面配向で形成し、薄いCNTフィルムを形成し得る。
自分訳:より具体的には、カーボンナノファイバーは、ランダムに交差した状態になり、相互に連結した網目構造を平面配向に形成することによって、CNT薄膜を形成することができる。
“interconnected”についてです。
わたしは、「相互に連結」とするか「相互に結合」とするかで悩み、「連結」としました。
公開訳の「相互接続」というと、電気的にconnectするか、ケーブルをconnectというイメージを持ちました。
係り受けとrather
The microstructure of BNNT films is rather similar to the CNT films, although it has a lower aspect ratio and contains more impurities due to the nature and the low purity of the raw material available.
公開訳:BNNTフィルムのミクロ構造は、CNTフィルムにやや類似しているが、アスペクト比がより低く、利用できる原材料の性質及び低純度に起因してより多くの不純物を含んでいる。
自分訳:BNNT膜の微細構造は、入手可能な原材料の性質および純度の低さにより、アスペクト比がより低くかつ不純物をより多く含有するものの、CNT膜の微細構造にかなり類似している。
複数のサイトを参照すると、BNNT(窒化ホウ素ナノチューブ)とCNT(カーボンナノチューブ)は、その性質やアスペクト比は異なるものの、非常に類似した構造を持つと考えました。
公開訳では、BNNTがCNTとやや類似しているものの、CNTと同じようにペリクル膜として使用することには問題がある、と言いたいようにも受け取れます。
それから、係り受けについてです。
訳出時に悩んだのが、”due to the nature and the low purity~”が”a lower aspect ratio”に係るのかどうか、ということです。
結果、「その性質(nature)により、アスペクト比が低い」と解釈したのですが、アスペクト比は長さ・直径の比という構造的なものなので、性質が構造に影響するのはおかしいです。係り受けミスなのだと考えます。
訳出時にこの考えに至らなかったことを反省しています。
次元 or 寸法
As provided above, the inventors demonstrated the capability to produce freestanding, nanoparticle films with adequate dimensions to be use as EUV pellicles in an EUV scanner environment.
公開訳:前述で示したように、発明者らは、EUVスキャナ環境におけるEUVペリクルとして用いるべき適切な次元を伴う自立型のナノ粒子フィルムを製造できる可能性を実証した。
自分訳:上に提示するように、本発明者らは、EUVスキャナ環境でEUVペリクルとして使用するための適切な寸法を有する、自立型ナノ粒子膜を生成できることを実証した。
“dimensions”についてです。
この明細書では、あくまでEUVリソグラフィで用いるのに適切な寸法を有するペリクルについて述べていて、2次元的なのか3次元的なのか?という次元の話ではないのでは・・と考えました。
フルサイズのペリクルや、25x25mmサイズのペリクル膜での面密度の影響なども試験しています。
しかし、単層カーボンナノチューブ・多層カーボンナノチューブの比較も行っているので、「単層・多層 → 平面的・立体的 → 2次元的・3次元的」ということで「次元」としているのでしょうか。
powerとdose
Further, EUV irradiation test of a full-size CNT pellicle with a dose equivalent to 90 kJ/cm2 (equivalent to a 600 watts energy source) at the power of 20 W/cm2 for 4 hours demonstrated an undisrupted CNT film.
公開訳:さらに、パワー20w/cm2を4時間施した90kJ/cm2に相当するドーズ(600ワットエネルギー源に相当する)を用いたフルサイズCNTペリクルのEUV照射試験によって、破壊されていないCNTフィルムが実証された。
自分訳:さらに、出力20W/cm2、線量90kJ/cm2相当(600ワットエネルギー源に相当)で4時間実施されたフルサイズのCNTペリクルのEUV照射試験では、CNT膜が破壊されないことを実証した。
“power”と”dose”についてです。
調べると、”dose”については、どれだけ暴露されているかを「ドーズ量」と表現することがあると分かりました。
“power”については、パワーとするか出力とするのが良いのか、または統一されていればどちらでも良いのか。
これについては、まだ納得できるまで調査できていません。
透過 or 透明
最後に、「透過」と「透明」について。2つの文を挙げます。
The photomask may refer to an opaque plate with holes or transparencies that allow light to shine through in a defined pattern.
公開訳:フォトマスクは、規定したパターンを通って光が透き通れるようにする孔または透明度を伴う不透明なプレートを指す場合がある。
自分訳:フォトマスクは、所定のパターンで光を照射して透過させる孔または透明部を有する不透明なプレートを意味し得る。
While heat resistance is important, the pellicle must also be highly transparent for EUV, to ensure the passing through of the reflected light and light pattern from the photomask.
公開訳:耐熱性は重要ではあるが、ペリクルはまた、フォトマスクからの反射光及び光パターンの通過を確実にするために、EUVに対して非常に透明でなくてはならない。
自分訳:耐熱性は重要である一方、ペリクルは、フォトマスクから反射された光および光パターンが確実に透過するように、EUVに対して透過性も高くなければならない。
ペリクル自体は、”opaque plate”で、”holes or transparencies”を有しています。
一文目の”transparencies”に対しては「透明」、2文目”transparent”は「透過性」の方が好ましいのではないかと考えました。
公開訳と比較したとき、「EUVに対して透明である」という表現に違和感を持ちました。
しかし検索したところこの表現がヒットしたので、透過性を有することを「~に対して透明」という表現が使用されるのだと分かりました。
以下のように、光をどれだけ通すかが透明性であると考えれば、透明性が高いことはつまり透過性が高いということです。
https://plastics-japan.com/archives/7266
疑問点として挙げましたが、この記事を書きながら納得しました(すみません)。
まとめ
今回も自力翻訳する前に、類似の日本語明細書を数件読み、1件はメモリと用語ベースに取り込んだので、全体としてはスムーズに進みました。
一方で、途中で訳揺れに気がつくことが何度かあり、修正のために無駄な時間を使ったことを反省しています。
たった1つの語でも、「本当にこれで良いのだろうか。致命的なミスをしているのではないだろうか」…と気になり始めたら何時間でも調べたくなります。
しかしそれでは仕事になりません。適切に、見切りをつけなければなりません。
それから今回、体調面で実感したことがありました。
それは、「ちょっとした風邪も翻訳作業には大敵」ということです。
今回の自力翻訳では、1日目と2日目に9時間を翻訳にあてたのですが、当然のことながら体調が万全でなければ9時間もできません。
一昨日昨日と葛根湯を飲んで早めに就寝したためか、この記事を書いている今はずいぶん体調が楽になり、鼻水が止まっている時間が長くなってきました。
今後も葛根湯や風邪薬を常備し、少しでも体調がすぐれないと感じたら、湯船に長めに浸かって夜の勉強は無理せず早めに寝るなど心がけます。
今後の予定
この次は全固体電池と、NAND型フラッシュメモリの明細書に取り掛かります。
電池は以前、わりと時間をかけて勉強しましたが、まずは数件、日本語明細書を読むところから開始します。