バイオ・メディカル

バイオ燃料電池における発電効率および発電持続時間の向上

本日も特許明細書を1件取り上げ、その内容に沿って記事を書きます。6月半ばまではバイオ燃料電池やバイオ燃料などバイオマス関連の特許明細書を読む予定です。

今回取り上げるのは以下の特許明細書です。

【公開番号】特開2018-137091(P2018-137091A)
【公開日】平成30年8月30日(2018.8.30)
【発明の名称】バイオ燃料電池

燃料電池とは

燃料電池とはどのようなものであるのかについては、以下の記事にまとめている。

燃料電池の特徴と原理、その応用燃料電池とは 燃料電池の特徴 燃料電池は、一次電池や二次電池(詳しくは別の記事にまとめる)と同じく、化学反応によって電気エネルギーを...

バイオ燃料電池における課題

【課題】バイオ燃料電池のアノードの電極触媒である酵素に安定的かつ連続的に燃料を供給し、効率的に燃料から電気エネルギーを取り出すことができるバイオ燃料電池を提供すること。更に、発電効率及び発電持続時間を向上できるバイオ燃料電池を提供すること。

バイオ燃料電池における課題は、長時間持続して安定的に発電することが困難であるということである。

これまでに発明されたバイオ燃料電池の例として、以下の3つのバイオ燃料電池には依然として上記の課題が残ると考えられる。

1:燃料吸収体を配置


※画像は特開2011-238541号公報の【図1】より引用

「燃料供給部」、アノード、隔膜、カソードを含む「電池部」、そして「吸収体部」からなるバイオ燃料電池に関するものであり、燃料は飲用と発電用の両方に使用できる飲料である。

供給された燃料溶液は、発電に使用された後に電池部を透過して吸収体に吸収される。

これにより、発電に使用された燃料溶液が逆流することを防ぎ、逆流による汚染を防ぐことができる。発電に使用する前であれば飲料として飲むことができる。

しかし、アノードの下には隔膜とカソードが配置されている。燃料溶液はこれらを容易に透過することができず、効率よく吸収することが困難であると考えられる。

また、安定的な供給の面では依然として課題が残る。

2:自然拡散と対流


※画像は特開2008-282586号公報の【図1】より引用

コイン型またはボタン型のバイオ燃料電池であり、アノード、隔膜、カソードが収容されている。

アノード上面には燃料タンクなどの燃料保持部があるため、燃料溶液を安定的に供給することができる。

しかし、アノードに固定された酵素の近くに存在する燃料のみが消費されるために、長時間にわたって電気エネルギーに変換するという点で課題が残る。

「安定的に燃料溶液を供給する」という課題は解決できる一方、供給された燃料溶液を効率良く対流させることが困難であると考えられる。

3:カソードにガス拡散層を配置


※画像は【公開番号】 国際公開第2013/132707号 公報の【図1】より引用

アノード、隔膜、カソードを含む電池セルが複数積層されたバイオ燃料電池であり、気体のみが通過できる「ガス拡散層」がカソードに接触して配置されている。

これにより、大気からカソードに安定して酸素を供給することができる。

しかし、カソード側とアノード側では要求される機能が異なるため、アノードへの安定的な燃料供給においては課題が残る。

課題解決のために必要なこと

先ほど挙げた3つの例をまとめると、バイオ燃料電池には以下の2つの大きな課題がある。

・安定的に燃料溶液をアノードに供給する
・アノードに供給された溶液燃料が効率的に対流する(動く)ようにする

これらの課題を解決するために発明されたバイオ燃料電池が、今回取り上げる特許である。

課題を解決するための発明

【解決手段】酵素を電極触媒とするアノードと、前記アノードとイオン伝導性を有する隔膜を挟んで対向するカソードを備えるバイオ燃料電池であって、前記アノードが、前記酵素が固定化され、燃料溶液が含浸する多孔質体を備えると共に、水平方向に対して20~60度傾斜して配置されている、バイオ燃料電池。

この発明における重要なポイントは、「傾斜」「勾配」である。

燃料溶液の自然拡散


※図は本特許の【図1】から引用

図の通り、アノードを水平方向に対して20~60度傾斜させる。最も好ましいのは45度である。

これにより、外部から供給される燃料溶液が「自然拡散」する。自然拡散とは、動力を要することなく自然に拡散するということで、この場合は重力によって燃料溶液が拡散することを意味する。

アノードとカソードは外部回路に接続されており、アノードには燃料溶液、カソードには酸素が安定的に供給される。

安定的に供給された燃料を自然拡散することで、効率的に電気エネルギーを得ることができるようになる。

具体的に、燃料溶液が自然拡散する原理をまとめる。

アノードの勾配


アノードは水平方向に対して傾斜して配置される。

そのため、外部から供給された燃料溶液は重力に従ってアノードの下方に多く保留されることになる。

つまり、アノード上方では燃料溶液の保留量が最も少なく、下方では最も多いという勾配が生じる。

アノードは、溶液を含むための「多孔質体」を有する。多孔質体は、微細な小さな穴を多数有するものである。

この多孔質体によって、アノードで「毛細管現象」が起こる。

毛細管現象


毛細管現象は、水がすき間に入り込もうとする性質によるものである。

例えば、水中にストローなどの細い管を立てると、水が重力に逆らって吸い上げられる現象が起こる。

本発明のアノードにおいても、燃料溶液が多数の微細なすき間に入り込むことでアノード下方から上方に吸い上げられる毛細管現象が起こる。

燃料溶液は重力によってアノードの下方に流れるのに対して、毛細管現象によって下方から上方に移動する。

アノード上方では燃料溶液の保留量が少ないため自然蒸発する。すると、さらに下方から燃料溶液が吸い上げられる。

これにより燃料溶液の自然な流れが生じる。つまり、燃料溶液の拡散性が向上する。

電極材の工夫

本発明は、アノードに傾斜を持たせるだけではなく、酵素、燃料溶液に含ませる緩衝液、電極材に関する工夫も含む。

ここでは電極材のみ取り上げる。

炭素微粒子を含む電極材


※図は本特許の【図1】から引用

アノードの電極材は、炭素微粒子をカーボンクロスに練り込んだものを使用している。

電極材は厚みが0.3mmほどあるため、燃料溶液を0.1 mL/cm2程度保留することができる。

炭素微粒子は導電性の多孔質体である。

多数の微細な間隙(すき間)をもつため毛細管現象によって燃料溶液をアノードの上方に吸い上げ、自然拡散が促される。

図のように、電極材のすき間には、燃料の酸化を触媒する酵素(図1の12)と、酵素と電極基材の間にある電子伝達メディエータ(図1-13)が存在する。

酵素とメディエータの働きも、燃料溶液の拡散を促すことに貢献している。

まとめ

今回の発明では、燃料溶液の自然拡散によって従来のバイオ燃料電池における課題を解決することができる。

バイオ燃料電池が長時間安定して発電することが可能となれば、医療、環境、食品など様々な分野における利用が期待できる。

参考

雨漏りの陰に毛細管現象あり
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/hb/18/00005/071800008/

少量胸水をしっかり確認できる「毛細管現象」と「CP-A」について
https://radiographica.com/capillarity/

毛細管現象
https://memo-labo.com/mousai.php

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