prepareの訳語

prepareは、「準備する」という意味のほか、試薬・培地などを「調製する」という意味も持ちます。

「準備する」と「調製する」は、『新明解国語辞典 第八版』には以下のように定義されています。

準備する:いざという時に備えて(起こりうる条件を予想して)同じ状況で軽く試みたり必要な物をそろえておいたりすること。

調製する:注文に応じて、必要な物を作ること。

また、prepareは、「調合する」と訳される場合もあります。

辞書に定義される意味は以下の通りです。

調合:〔薬剤・香料・陶土など〕二種類以上の素材を一定量交ぜ合わせて、新しい性能(性質)のものを作り出すこと。

「調合する」は上記の通り「複数のものを混ぜ合わせて作ること」、「調製する」は「必要なものを必要な状態に整えて作ること」に焦点があるという感じでしょうか。

以下の資料には、「調製」の意味として以下のように記載されています。

調製」とは、最小限の操作、およびヒト幹細胞の人為的な増殖、細胞・組織の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変操作、非細胞・組織成分との組み合わせ又は遺伝子工学的改変操作等を施す行為をいう。

引用元:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0315-7e.pdf

外来で点滴治療を行う皆様には、その治療に使う注射・点滴を調製します。この調製とは、薬が安全で効果的な使用量になっているかを確認した後、点滴の中に異物などが混入しないような厳しい衛生管理の下、もともとは粉になっている薬を溶かして0.1ミリリットルまで正確にはかりとり、これを点滴の中に混ぜて皆様に使用できる状態にすることです。

引用元:https://www.fukushimah.johas.go.jp/file/news/fukurou/10.pdf

調製”とは試料を調え,作製することを意味する。

引用元:https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/dev/md_1249.pdf

上記の通り、「調製する」には、試料を使用できる状態に整えたり、薬剤を患者に使用できる状態に整えたりする意味があるようです。

「調製する」は、混ぜ合わせることに限定されていないので「調合する」よりも広い意味合いを含み、「準備する」は、「調製する」の意味合いをゆるく含んだ用語であるように思います。

これをもとに、ある特許出願(2020-116222)を取り上げます。

「調合する」が「用意する」に修正

特許出願2020-116222では、prepareに対してもともと「用意する」と訳されていたものが「調合する」に変更され、その後、「用意する」に再度修正されています。

該当する部分を抜き出します。

原文:the dosage control device determines an amount of the drug to be prepared for each dose based on the first instructions from the processor, and sends second instructions to the dosage delivery device to prepare and deliver the determined amount of the drug for delivery for each dose;

訳文①:前記投与量コントロールデバイスは、前記プロセッサーからの前記第1指示に基づいて 各投与に調合すべき前記薬物の量を決定し、各投与での送達のために決定された前記量の薬物を調合して送達するように第2指示を前記投与量送達デバイスへ送り、

訳文②:
<明細書>投与量コントロールデバイスは、プロセッサーからの第1指示に基づいて各投与について用意すべき薬物の量を決定し、各投与について送達するために決定された量の薬物を用意して送達するという第2指示を投与量送達デバイスへ送る

<請求項>前記投与量コントロールデバイスは、前記プロセッサーからの前記第1指示に基づいて各投与においてエアゾール化すべき前記薬物の量を決定し、各投与での送達のために第2指示を前記投与量送達デバイスへ送り、

以下の流れで修正が行われているようです。

①令和3年9月24日 手続補正書
請求項中の「用意」を「調合」に変更(上記の訳文①)

②令和3年10月14日 拒絶理由通知書
「外国語書面の翻訳文等からは”調合すること”は読み取れない」

③令和4年8月1日 誤訳訂正書
明細書中の「用意」を「調合」に変更
令和4年8月10日 手続補正書にて、明細書に記載の内容は「調合」に含まれる旨の記載

④令和5年1月18日 拒絶理由通知書
「調合(複数薬剤を混ぜること)の記載が明細書に記載されているものとは認められない」

⑤令和5年3月10日 誤訳訂正書
明細書中の「調合」を「用意」に戻す(請求項は上記の訳文②に変更)

まとめると、最初は「用意する」と訳されていたものが「調合する」に修正された結果、審査管より「明細書の詳細な説明に調合(複数の薬剤を混ぜること)を意味する説明が認められない」と拒絶され、その後、明細書中の「調合する」が「用意する」に修正され、請求項については別途補正により構成が変更され、訳文②の通り「エアゾール化すべき」となったと思われます。

拒絶理由通知書と誤訳訂正書には、以下の通り記載されています。

【誤訳訂正書】 出願当初の明細書及び特許請求の範囲における「用意」という用語は、対応する英語の外国語明細書および外国語特許請求の範囲では、“prepare”となっている。添付のウェブサイト(https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/english-japanese/prepare)での結果にも見られるように、“prepare”には、『<物>を・・・、用意する』という意味もあるが、『<薬品など>を調合する』という意味もある。そして、当初明細書の段落0151には、「薬物ペイロードは1回以上の投与に十分な量の薬物を収容するように構成されたレザバーを含む」と記載されている。さらに、同段落には、「各投与について用意すべき薬物の量を決定し、各投与について送達するために決定された量の薬物を用意して送達するという第2指示を投与量送達デバイスへ送る;投与量送達デバイスは、投与量コントロールデバイスからの第2指示に基づいて薬物ペイロードからユーザーへ薬物を送達する」と記載されている。これらの文脈から、この“prepare”は、物を「用意」するというよりも、薬物を「調合」すると考えるのが適切である。したがって、出願当初の明細書及び特許請求の範囲における「用意」という用語を「調合」と訂正する

【拒絶理由通知書】
請求項1に「前記投与量コントロールデバイスは、前記プロセッサーからの前記第1指示に基づいて各投与に調合すべき前記薬物の量を決定し、各投与での送達のために決定された前記量の薬物を調合して送達するように第2指示を前記投与量送達デバイスへ送り、」と記載されているが、「調合」(すなわち、複数の薬剤を混ぜること)に係る記載が発明の詳細な説明に記載されているものとは認められない。 令和4年12月9日提出の上申書記載の補正案のとおり補正すれば、(4)については解消されるが、発明の詳細な説明の段落【0151】の記載についても、「調合」に係る記載を補正する必要がある。

【誤訳訂正書】
令和4年8月1日提出の誤訳訂正書において、明細書の段落0151の「用意」という用語を、「調合」とする補正を行った。 この「調合」という用語に対応する英語の外国語明細書および外国語特許請求の範囲には、“prepare”と記載されている。添付のウェブサイト(https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/prepare/#ej-66340)での結果にも見られるように、“prepare”には、『(…のために)…を準備[用意]をする』という意味が含まれる。そして、当初明細書の段落0151の記載および「調合」の前後の文脈において、“prepare”は、「薬物」を「用意」するとすることが適切である。したがって、出願当初の明細書及び特許請求の範囲における「調合」という用語を「用意」と訂正する

気になった点とまとめ

以下は、令和4年8月10日の手続補正書です。

「調合」とは適切な量の薬を作ることを意味するものであることは技術常識である。また、適切な量の薬を作ることとは、例えば、ユーザーにおいて適切な量の薬が吸入されるように、薬の剤形等を適切なものとすることが含まれると当業者には理解される。

例えば、発明の詳細な説明の段落0098において、「凝縮薬物エアゾールを投与」し、「局所処置または全身処置のために吸入により患者(ユーザー)の肺へ送達」するために、「組成物を加熱して蒸気を生成」し、「その蒸気を冷却させてそれにより凝縮エアゾールを形成する」と記載されている。当該記載からも、「調合」には、「組成物を加熱して蒸気を生成」すること、および「その蒸気を冷却させてそれにより凝縮エアゾールを形成する」という、ユーザーにおいて適切な量の薬が吸入されるように、薬の剤形等を適切なものとすることが含まれることが当業者には理解される。

ここには、「ユーザーにおいて適切な量の薬が吸入されるように、薬の剤形等を適切なものとすること」は「調合する」に含まれると記載されています。

しかし、今回の記事の冒頭で紹介した辞書の定義によれば、「調合」の本来の意味よりも拡張されているような印象を受けます。

請求項のprepareが、「ユーザーにおいて適切な量の薬が吸入されるように、薬の剤形等を適切なものとすること」という意味を含んでいるという前提なら、「調製する」が適切ではないでしょうか。

もしかすると、最初から「調製する」と訳していれば、このような修正を行う必要はなかったのではないか?と思いました。

※請求項と明細書を全て読んではいないので、あくまで自分が読んだ範囲での意見です。