バイオ・メディカル

放射免疫療法関連の対訳学習終了(公開訳に対する気づき・疑問点など)

今月22日に夫が休暇に入ってからというもの、買い出し、外食、その他の用事が重なっています。しかも、健康麻雀大好き夫による麻雀特訓まで始まりました。

そんなわけで、12月後半の勉強時間がかなり少ないです(^^;)。

年末までの買い出しと大掃除を今日中に終わらせたので、明日から3日間は勉強できる予定です。12/31~年明け1/2は自分と夫の実家で過ごします。

話は変わりますが、先日検眼に行きました。

眼圧検査、OCT検査等の結果、大きな異状はみられませんでした(現時点で視野検査はする必要なしとのこと)。

ただし、左目が近視気味とのこと。近視の人は緑内障リスクがやや高くなるそうなので、今後も1年に一度は検眼することにします。

夫婦そろってドライアイと診断され、点眼薬を処方されました。

放射免疫療法関連の対訳学習

さて、放射免疫療法(RIT)関連の、以下の明細書の対訳学習が終わりました。

(11)【公表番号】特表2010-513481(P2010-513481A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【発明の名称】放射免疫療法及びウイルス抗原を発現する腫瘍細胞のイメージング

今回は、公開訳に対して気づいた点や疑問に感じた点を中心にまとめます。

※明細書の内容を掘り下げて学習するための題材として、公開訳を使用しています。公開訳の誤訳を指摘することを目的とはしていません。

公開訳に対する気づき・疑問点

188Re and 13Bi

RIT is also potentially less toxic since the chemistry of linking different radioisotopes to antibodies including 188Re and 213Bi has been well developed, and the exceptional stability of radiolabeled antibodies in vitro and in vivo has been confirmed.

公開訳:RITはまた、188Re及び213Biを含む抗体に連結する異なる放射性同位体の化学的性質が十分に明らかにされており、in vitro及びin vivoでの放射性標識抗体の特別な安定性が確認されているため、毒性を有する可能性は低い。

公開訳では、188Re及び213Biが抗体に含まれるように読み取れます。

しかし、188Re(レニウム)と213Bi(ビスマス)は放射性同位体であり、抗体に含まれるものではないと考えます。

以下のようにすると、”including 188Re and 213Bi”が”radioisotopes”に係っていることが明確になります。

また、188Reや213Biなどの異なる放射性同位体を抗体に結合する化学的手法が十分に開発されており、in vitro及びin vivoでの放射性標識抗体の優れた安定性が確認されていることから、RITが毒性を有する可能性は低い。

the chemistry

先ほどの原文についてもう一つ、”the chemistry”の訳出についてです。

「放射性同位体を抗体に結合する”the chemistry”が十分に”developed”されているので、安定性が確認されている」と説明されています。

“the chemistry”を「化学」とすると日本語として不自然になってしまうため、「化学的手法」としましたが、どうでしょうか。

公開訳は、「抗体に連結する放射性同位体の化学的性質が十分に明らかにされている」となっています。

しかし原文では、「放射性同位体の”chemistry”」というよりは、「”linking”することの”chemistry”」を指しているものと考えています。

viability

Viral replication already has an inherently high rate of mutation, and for RNA viruses, the mutation rate approaches the maximum rate compatible with continued viability (Drake (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:4171-4175).

公開訳:ウイルス複製は既に本質的に高い突然変異率を有し、RNAウイルスについては、突然変異率は、継続的な実行可能性(continued viability)と適合する最大の率に近づいている(Drake (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:4171-4175)。

公開訳では、「継続的な実行可能性と適合する最大の率」というのがやや理解しにくいと感じました。

この”viability”は、「生存能力」ではないでしょうか。

以下のようにするとどうでしょうか。

ウイルス複製は既に本質的に高い突然変異率を有し、RNAウイルスについては、突然変異率は、継続的な生存能力と両立できる最大率に近づいている(Drake (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:4171-4175)。

ウイルスが、その生存能力を保ちながらも突然変異ができる状態、つまり

・生存能力を損なわない(生存能力を保つ)
・突然変異すること

を両立していて、その両立ができる最大の突然変異率であると考えます。

with deleted ~ and preserved ~

F(ab’)2 is an antigen binding fragment of an antibody molecule with deleted crystallizable fragment (Fc) region and preserved binding region.

公開訳:F(ab’)2は、欠失結晶化可能断片(Fc)領域及び保存結合領域を有する抗体分子の抗原結合断片である。

「欠失結晶化可能断片(Fc)領域及び保存結合領域を有する」というのが、理解しにくいと感じました。

以下のように訳出すると分かりやすいと考えます。

F(ab’)2は、結晶化可能断片(Fc)領域が除去され、かつ結合領域が保持された抗体分子の抗原結合断片である。

F(ab’)2は、抗体を分解酵素で断片化したものです。F(ab’)2の構造は、抗体の結晶化可能領域(Fc領域)を除去して、抗原と結合するFab領域を残した構造です。

抗体のFab領域と断片化したものを区別するために「プライム」をつけて「Fab’」と表現されます。Fab’が2つでF(ab’)2です。

reduced

Simultaneously with 3-10 mCi (1 10-370 MBq) 188-ReO4 in saline can be reduced with SnCl2 by incubation in the presence of Na gluconate, combined with purified reduced antibodies and kept at 37°C for 60 minutes.

公開訳:同時に生理食塩水中3mCi~10mCi(110MBq~370MBq)の188-ReO4をSnCl2でグルコン酸ナトリウムの存在下でインキュベートすることにより低減することができ、精製低減抗体と合わせて、37℃で60分間維持する。

抗体を放射性同位体で標識する工程を説明している部分です。

188-ReO4(過レニウム酸)を還元剤であるSnCl2で「還元」して、かつ抗体も還元剤でジスフィルド結合を還元し、これらを合わせることによって標識するものと理解しています。

したがって、”reduced”は「低減」ではなく「還元」であると考えます。

have

The invention provides a novel strategy against tumors caused by viruses that uses binding molecules such as mAbs to viral proteins to deliver tumoricidal radiation. This strategy is fundamentally different from prior uses of radioimmunotherapy (RIT) which have targeted tumor associated antigens that are “self proteins.

公開訳:本発明は、ウイルスタンパク質へのmAb等の結合分子を使用して、殺腫瘍放射線を送達する、ウイルスによって引き起こされる腫瘍に対する新規の戦略を提供する。この戦略は、「自己」タンパク質である標的化腫瘍関連抗原を有する放射免疫療法(RIT)の従来の使用とは根本的に異なる。

「標的化腫瘍関連抗原を有する放射免疫療法(RIT)」に違和感を持ちます。

この”have”は、動詞「有する」ではなく現在完了形のhaveであると考えます。

本発明は、ウイルスタンパク質へのmAb等の結合分子を使用して、殺腫瘍放射線を送達する、ウイルスによって引き起こされる腫瘍に対する新規の戦略を提供する。この戦略は、「自己」タンパク質である腫瘍関連抗原を標的としてきた従来の放射免疫療法(RIT)の使用とは根本的に異なる。

preneoplastic lesions

Genotypes of HPV can be grouped into “high-risk” and “low-risk” types according to the degree of risk of development of cancer after infection with each genotype. A subset of women with high-risk HPVs such as HPV- 16 or HPV- 18 will develop preneoplastic lesions of cervical intraepithelial neoplasia.

公開訳:HPVの遺伝子型は、各々の遺伝子型への感染後に癌が発生する危険度に応じて、「高リスク」型及び「低リスク」型に分類することができる。HPV16又はHPV18等の高リスクHPVの女性の一部では、子宮頸部上皮新生物の新生物発生前病変が発生する。

日本語で読んだときに、「子宮頸部上皮新生物の新生物発生前病変」が分かりにくい、と感じました。

以下のようにするとどうでしょうか。

HPVの遺伝子型は、各々の遺伝子型への感染後に癌が発生する危険度に応じて、「高リスク」型及び「低リスク」型に分類することができる。HPV16又はHPV18等の高リスクHPVの女性の一部では、前癌病変である子宮頸部上皮内腫瘍が発生する。

上記のようにすれば、HPV16やHPV18に感染した女性において、癌の前の病変(前癌病変)として子宮頸部上皮内腫瘍が生じる場合があるため、これらの型が「高リスク」に分類されるということが理解しやすいと考えます。

とはいえ、この一文は「公開訳では自分が分かりにくいから」という理由で取り上げているだけで、公開訳のままでも当業者であれば理解できるのだろうとは思います。

pointing

While the binding of C1P5 mAb to the cells that were almost intact was weak, the heavily damaged cells with penetrable membranes showed bright fluorescence pointing to binding of C1P5 to E6 (Fig. 4A).

公開訳:C1P5 mAbのほぼ無傷な細胞への結合は弱かったが、透過可能な膜を有する強い損傷を受けた細胞は、C1P5のE6への結合に対して明るい蛍光の指向性(pointing)を示した(図4A)。

公開訳では”pointing”で「指向性」としていますが、”pointing to”で「を示す」「を示唆する」であると考えます。

C1P5 mAbのほぼ無傷な細胞への結合は弱かったが、透過可能な膜を有する強い損傷を受けた細胞は、C1P5のE6への結合を示す、明るい蛍光を示した(図4A)。

抗体C1P5がウイルス抗原E6に結合し、抗体に標識した放射性同位体による蛍光として示されていると言っているのではないでしょうか。

cytoplasm

Both E6 and E7 are located within the nucleus, and HBx is found in the nucleus and occasionally in the cytoplasm.

公開訳:E6及びE7の両方は核内に位置し、HBxは核及び時には原形質に見られる

B型肝炎ウイルス(HBV)が産生するタンパク質(HBx)は、核や細胞質にみられます。

「原形質」は、核と細胞質を併せたものを指すため、この場合の”cytoplasm”は「細胞質」と訳出するのが好ましいと考えます。

E6及びE7の両方は核内に位置し、HBxは核及び時には細胞質に見られる。

which~係り受け

Mouse mAb 4H9 to HBV HBx (Aviva, Cat# AVAMM2005) and mouse mAb S26 to HBV protein Hbs (Gene Tex Inc. Cat# GTXl 8797) which cross-reacts with HBsAg preS2 antigen were used in HCC experiments.

HBV HBxに対するマウスmAb 4H9(Aviva、カタログ番号AVAMM2005)及びHBsAg preS2抗原と交差反応するHBVタンパク質Hbsに対するマウスmAb S26(Gene Tex Inc.、カタログ番号GTX18797)をHCC実験に使用した。

「HBsAg preS2抗原と交差反応する」のは、「HBVタンパク質Hbs」ではなく「マウスmAb S26」であると考えます。

公開訳もその解釈で訳されているのかもしれませんが、「HBsAg preS2抗原と交差反応するHBVタンパク質Hbs」とも読めてしまいます。

exposed

After three washes with TBST, the membrane was incubated in CDP-Star™ chemiluminescent substrate solution (Sigma) for 5 min, and then exposed to CL-XPosure™ film (Pierce).

公開訳:TBSTで3回洗浄した後、膜をCDP-Star(商標)化学発光基質溶液(Sigma)中で5分間インキュベートし、その後、CL-XPosure(商標)フィルム(Pierce)に曝露した。

SDS-PAGE、ウェスタンブロットに関する一文です。

以下を含めて複数のサイトを参考にすると、”expose”は、「暴露」より「露光」の方がより好ましいと考えます。

graded ethanol continuously

The sections were deparaffinized in xylene and dehydrated in graded ethanol continuously, and pre-treated with citrate buffer (pH 6.0) at 1000C for 20 min to retrieve the antigen.

公開訳:切片をキシレン中で脱パラフィンし、エタノール中で連続して脱水し、クエン酸緩衝液(pH 6.0)で100℃で20分間前処理して抗原を回収した。

“graded ethanol”は、50%、60%、70%…などと段階的に濃度が異なるエタノールを指していると考えます。

濃度の異なるエタノールを連続的に加えながら脱水処理を行っているのではないでしょうか。

これをどう訳出するかを考えました。

切片をキシレン中で脱パラフィンし、段階的な濃度のエタノールで連続して脱水し、クエン酸緩衝液(pH 6.0)で100℃で20分間前処理して抗原を回収した。

上記のようにするとやりすぎでしょうか?あるいは

切片をキシレン中で脱パラフィンし、段階的エタノールで連続して脱水し、クエン酸緩衝液(pH 6.0)で100℃で20分間前処理して抗原を回収した。

ならどうでしょうか。

「段階的エタノール」という表現で大学や学会等のサイトがヒットするため、誤りではないと考えます。

まとめ

今回は、公開訳に対する気づきや疑問点についてまとめました。

次は免疫療法に関する明細書を使用して対訳学習を行います。

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