翻訳全般

特許明細書におけるmaterialの訳について

特許明細書を翻訳していると、”material”の訳に悩むことが多いです。

この記事では、これまでに対訳学習を行った明細書を題材に、”material”が登場する文を取り上げます。

materialの意味

“material”を英和辞典で調べました。一部だけ挙げると以下のような意味があります。

  • 材料
  • 物質
  • 資材
  • 原料
  • 生地
  • 材質
  • 資料
  • ~剤

“Oxford Advanced Learner’s Dictionary”で調べると、以下のようでした。

・things that are needed in order to do a particular activity
・information or ideas used in books, etc.
・cloth used for making clothes, curtains, etc.
・items used in a performance
・a substance that things can be made from

明細書の”material”

先日自力翻訳を終えた明細書を含め、これまで学習の題材として使った明細書から、”material”が使用されている文を挙げます。

自力翻訳した明細書については、私の訳(自分訳)と公開訳を掲載しています。そうでないものは公開訳のみ掲載しています。

原文や訳文について、疑問に思うことや気づきなどを記載しています(すべてではありません)。

cathode material

The applicant has discovered that it is possible to form films of cathode material directly onto substrates.

公開訳:本出願人は、カソード物質のフィルムを基板上に直接的に形成することができることを発見した。

自分訳:本出願人は、正極材料膜を基板の上に直接形成できることを見出した。

正極は電池の材料であるとして、「材料」にしました。

cathode material

The inventors have found that surprisingly, above this ratio, that thin films of cathode material, such as LiCoO2, form crystalline structure directly in situ on the film.

公開訳:発明者らは、驚くべきことに、この比率を超えると、LiCoO2のようなカソード物質の薄膜が、膜上に直接的にその場で結晶組織を形成することを見出した。

自分訳:本発明者らは、驚くべきことに、この比を上回る場合、正極材料(例えば、LiCoO2)の薄膜が、その場でその膜上に結晶構造を直接形成することを見出した。

crystalline material

The method of depositing a (crystalline) material onto the substrate may be performed as a part of a method of manufacturing a battery cathode.The crystalline material in this example takes the form ABO2.

公開訳:(結晶)材料を基板上に堆積させる方法は、電池カソードを製造する方法の一部として実行されてもよい。この実施例における結晶性物質は、ABO2の形態をとる。

自分訳:基板の上に(結晶性)材料を堆積させる方法は、電池正極の製造方法の一部として実施され得る。この実施例における結晶性材料は、ABO2の形態である。

このmaterialの訳は悩みました。

ターゲット材料からスパッタリングされた原子が、基板上に堆積して、電池正極となる薄膜が形成されます。

ターゲットが薄膜を形成するための「材料」で、堆積して形成した薄膜は「(生成)物質」と考えられます。

なので”crystalline material”は結晶性物質とした方が良かったかもしれません。

ただ、前に挙げた”cathode material”は、「電池の材料」として正極材料としているし

…悩みます。

dopant material

In this example, the dopant material is a lanthanide.

公開訳:この例では、ドーパント材料はランタニドである。

自分訳:この例では、ドーパント物質はランタニドである。

この一文は、「ドーパント材料」より「ドーパント物質」の方がしっくりくるという感覚的な理由で「物質」としたので、良くなかったです。

どちらでも問題がないのであれば、他の”material”と訳し分けせず統一すべきでした。

thin-film material

Further, pellicles for EUV lithography requires a large (e.g., greater than 110 x 140 mm) free-standing, thin-film material with extreme and unique properties.

公開訳:さらに、EUVリソグラフィ用のペリクルは、極端で固有の特性をともなう大きな(たとえば、110x140mmを上回る)自立型薄膜材料を必要とする。

自分訳:さらに、EUVリソグラフィ用のペリクルは、大型で(例えば、110x140mmより大きい)自立型の、極端かつ特有の性質を有する薄膜材料を必要とする。

EUVリソグラフィに関する明細書からの一文です。

これはペリクルの材料としての薄膜なので、「材料」としました。

carbon nanotube material

When preparing one or more CNT suspensions, carbon nanotube material can be mixed with a selected solvent to uniformly distribute nanotubes in a final solution as a suspension.

公開訳:1つ以上のCNT懸濁液を調製するときに、カーボンナノチューブ材料を選択した溶媒と混合して、懸濁液としての最終溶液内にナノチューブを均一に分散させることができる。

自分訳:1つまたは複数のCNT懸濁液を調製する場合、カーボンナノチューブ材料を選択された溶媒と混合して、懸濁液としてナノチューブを最終溶液中に均一に分散させることができる。

raw material

The microstructure of BNNT films is rather similar to the CNT films, although it has a lower aspect ratio and contains more impurities due to the nature and the low purity of the raw material available.

公開訳:BNNTフィルムのミクロ構造は、CNTフィルムにやや類似しているが、アスペクト比がより低く、利用できる原材料の性質及び低純度に起因してより多くの不純物を含んでいる。

自分訳:BNNT膜の微細構造は、入手可能な原材料の性質および純度の低さにより、アスペクト比がより低くかつ不純物をより多く含有するものの、CNT膜の微細構造にかなり類似している。

“raw material”はほとんど悩むことなく「原材料」としました。

hardmask materials

Common hardmask materials are spin-on silicon anti-reflective coating (SiARC) and a deposited silicon oxynitride (SiON).

公開訳:一般的なハードマスク材料は、スピンオンシリコン反射防止コーティング(SiARC)及び堆積酸窒化ケイ素(SiON)である。

EUVパターニングで使用されるハードマスクに関する一文です。自力翻訳はしていませんが、「材料」が一番好ましいと思います。

metal oxide materials

Several metal oxide materials have been tested as EUV hardmasks (HM).

公開訳:いくつかの金属酸化物材料が、EUVハードマスク(HM)として試験された。

こちらも、ハードマスク材料としての金属酸化物なので「材料」かと。

adhesive material

Embodiments of the present disclosure provide methods and systems for modifying the surface chemistry of the SnO2 layer to be more hydrophobic to enhance photoresist adhesion and allow direct application of photoresist onto the Sn02 layer without an intervening layer of adhesive material.

公開訳:本開示の実施形態は、フォトレジストの接着性を強化し、接着の介在層なしにフォトレジストをSnO2層上に直接塗布することを可能にするために、SnO2層の表面化学をより疎水性に修飾するための方法およびシステムを提供する。

辞典の意味に「~剤」とあった通り、”adhesive material”で「接着剤」としています。

hydrophobic material

On the other hand, photoresist that is used in EUV lithography is generally characterized by hydrophobicity due to the presence of non-polar groups and polymeric organic material.Hydrophobic materials tend not to adhere to hydrophilic surfaces because interactions between the hydrophobic molecules and hydrophilic molecules are less thermodynamically favorable than hydrophobic-hydrophobic interactions of the hydrophobic material with itself.

公開訳:一方、EUVリソグラフィで使用されるフォトレジストは、一般に、非極性基および高分子有機材料の存在に起因する疎水性によって特徴付けられる。疎水性分子と親水性分子との相互作用は疎水性材料とそれ自体との疎水性-疎水性相互作用よりも熱力学的に有利ではないため、疎水性材料は親水性表面に接着しない傾向がある。

一文目だけをみると、「高分子有機材料の存在」よりは「高分子有機物質の存在」の方がよいのでは?と思いました。

しかし後に続く文も含めてみると、「疎水性材料は親水性表面に接着しない」とすることで、フォトレジストの材料としての疎水性物質が親水性表面との相互作用に影響することが表現できているとも思います。

material

A self-assembled monolayer is a one molecule thick layer of the material (here, the hydrophobic treatment compound) as a result of chemical forces during deposition and reaction.

公開訳:自己組織化単層は、材料(ここでは、疎水性処理化合物)の1分子の厚さを有し、堆積中および反応中の化学的力の結果として生じる層である。

biomass materials

The conversion of these inexpensive biomass materials have been studied extensively for use as a feedstock for fermentation products.

公開訳:これらの安価なバイオマス材料の変換は、発酵産物の原料としての用途について幅広く研究されている。

自分訳:これらの安価なバイオマス材料の変換は、発酵産物の原料として使用するために広く研究されている。

バイオマス関連の明細書からの一文です。バイオマスは様々な用途の「材料」となるので、「材料」がよいと考えました。

pozzolanic material

A pozzolanic material is also disclosed prepared from a method comprising a) pre- treating a biomass with a kaolin solid acid catalyst.

公開訳:また、a)バイオマスをカオリン固体酸触媒で前処理する工程を含む方法から製造されるポゾラン材料も開示されている。

自分訳:バイオマスをカオリン固体酸触媒で前処理することa)を含む方法から調製される、ポゾラン物質もまた開示される。

先の文と同じ明細書なのですが、私は「物質」と訳し分けています。

たしか、バイオマスの難分解性を低減させるために、固体酸触媒のポゾラン(カオリン)を使用してバイオマスを前処理するという内容でした。

バイオマス発酵産物(製品)の直接の「材料」ではない、という理由で「物質」と訳した記憶があります。

しかしバイオマス加工のための反応に使用されている「材料」ともいえますね…。

solid acid material

In one embodiment, the solid acid material is a clay material.As used herein, “a clay material” is defined as a material composed primarily of fine-grained minerals, which is generally plastic at appropriate water contents and will harden when dried or fired.

公開訳:一実施形態では、固体酸材料は粘土材料である。本明細書で使用する「粘土材料」とは、微細粒の鉱物で主に構成された材料と定義されており、一般的には、適切な含水率の塑性体であり、乾燥または焼成すると硬化するであろう。

自分訳:一実施形態では、固体酸物質は、粘土物質である。本明細書で使用する場合、「粘土物質」は、主に微粒子鉱物で構成される物質として定義され、これは一般に、適切な水分量では可塑性であり、乾燥されるか熱せられると硬化する。

こちらも、前の文と同じ理由で「物質」としました。

materials(Fluorine-containing polymers)

Fluorine-containing polymers (also known as “fluoropolymers”) are a commercially useful class of materials.

公開訳:フッ素含有ポリマー(「フルオロポリマー」としても既知)は、工業的に有用な種類の材料である。

自分訳:フッ素含有ポリマー(「フルオロポリマー」としても知られる)は、工業的に有用な種類の材料である。

フルオロポリマーを基材に結合させる方法に関する明細書からの一文です。

adhesive materials

The bonding composition may be free of adhesive materials.

公開訳:結合形成組成物には、接着剤材料が含まれなくてもよい。

自分訳:結合形成組成物は、接着材料を含まなくてよい。

こうして記事にまとめながらこの一文をみると、「接着材料」ではなく「接着剤」でよかったのでは?と思います。

other materials

Their low surface energy and coefficients of friction against other materials lead to the well-known anti-stick applications.

公開訳:それらの低い表面エネルギーおよび他の材料に対する摩擦係数は、周知の抗粘着性用途へと導く。

自分訳:フルオロポリマーの低表面エネルギー及び他の物質に対する摩擦係数は、周知の非粘着用途をもたらす。

この自分の訳をみていると、今ならもう少しマシな翻訳ができるだろうと思いますが、ここでは置いておくとします。

フルオロポリマーの一般的な性質として、他のmaterialに対する摩擦係数が低いということなので、「材料」ではなく「物質」と訳し分けた記憶があります。

additional materials

Unless otherwise specified, additional materials used in the examples were readily available from general commercial vendors such Sigma-Aldrich Chemical Co. of Milwaukee, WI.

公開訳:他に明示されない限り、実施例において使用される追加の材料は、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI)のシグマ-アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Sigma-Aldrich Chemical Co.)のような一般的な販売業者から容易に入手可能であった。

自分訳:特に指示がない限り、実施例で使用される追加の材料は、Sigma-Aldrich Chemical Co.(Milwaukee,WI)などの一般的な商用供給業者から容易に入手可能であった。

polymeric material

The fluoropolymers described herein are copolymers that comprise predominantly, or exclusively, (e.g. repeating) polymerized units derived from two or more perfluorinated comonomers. Copolymer refers to a polymeric material resulting from the simultaneous polymerization of two or more monomers.

公開訳:本明細書に記載のフルオロポリマーは、主に又は排他的に、2つ以上の全フッ素化コモノマーから誘導される(例えば、繰り返し)重合単位を含むコポリマーである。コポリマーは、2つ以上のモノマーの同時重合から生じるポリマー材料を指す。

自分訳:本明細書に記載されるフルオロポリマーは、2つ以上の全フッ素化コモノマーから誘導された(例えば、繰り返し)重合単位を優先的に、又は排他的に含むコポリマーである。コポリマーは、2つ以上のモノマーの同時重合から生じるポリマー物質を指す。

フルオロポリマー組成物でコーティングされた基材に関する明細書です。

この文だけをみれば「物質」の方がよいのではないかと思うのですが、どうでしょうか…

公開訳は、明細書全体で”material”の訳を「材料」に統一するためにこの一文を「材料」としているのか、あるいはこの一文だけであっても「材料」が好ましいと解釈しているのかが気になります。

まとめ

先日、自力翻訳の際に「自分は毎回”material”で悩んでいるな」と気が付いてから、いつかブログにまとめてみようと考えていました。

今回、10件ほどの明細書から”material”を含む文を取り上げました。

確認した明細書の公開訳では「材料」が圧倒的に多かったです。そして、ほとんど訳し分けせず統一している印象でした。

私の訳では、明確な理由もなく「ここは”物質”の方が何となくしっくりくる」という、自分勝手な理由で訳し分けをした明細書もありました。

基本的には可能な限り統一し、必要に応じて(明確な理由があることを前提として)訳し分ける場合は、その旨のコメントをつけるのがよいと考えています。

こうしてブログにまとめましたが、おそらくこれからも”material”の訳で悩むだろうと思います。

今後もこの記事に”material”を収集します。

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