今回は以下の特許明細書を取り上げながら、「生分解プラスチック」と、「海藻を原料にバイオマスプラスチックを合成する微生物」についてまとめます。
【公開番号】特開2021-87376(P2021-87376A)
【公開日】令和3年6月10日(2021.6.10)
【発明の名称】海藻を原料とする生分解性プラスチックの製造方法
バイオマスプラスチック
本発明は、海藻、特に褐藻そのものを原料とするPHAの製造方法を提供すること、および海藻を原料としてPHAを合成
可能な新規微生物を提供することを目的とする。
今回の特許は、海藻を原料としてPHAを合成する微生物を用いた、バイオマスプラスチックの製造に関する発明である。
バイオマスプラスチックとは
バイオマスプラスチックは、「生分解性プラスチック」の一つである。
生分解性プラスチック
生分解性プラスチックは、自然環境やコンポスト化装置の微生物によって、最終的に二酸化炭素と水に分解される高分子材料である。
生分解性プラスチックには、原料として化石資源を利用する石油由来のものと、バイオマスを利用するバイオマス由来の2種類がある。
「バイオマス由来=生分解性」ではない
バイオマス由来のプラスチックであっても、非生分解性のものがある。例えばバイオPET(ポリエチレンテレフタレート)、バイオPP(ポリプロピレン)などが挙げられる。
生分解性をもつバイオマスプラスチックの原料としては、ポリ乳酸やポリヒドロキシアルカン酸(PHA)が挙げられる。
バイオマスプラスチック度
画像引用元:http://www.jbpaweb.net/identification/
日本バイオプラスチック協会は、バイオマスプラスチック製品として表示するための基準として「バイオマスプラスチック度」が25%重量以上であることを挙げている。
バイオマスプラスチック度は、全重量に対するバイオマスプラスチックの成分質量を表す。
PHAとは
PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)は、微生物がエネルギー貯蔵物質として細胞内に蓄積する高分子である。
微生物+栄養不足+炭素源→PHAの合成
微生物は、窒素やリンなど栄養源となるものが不足した状況で、かつ炭素源が存在するときに、体内に脂肪酸ポリエステルであるPHAを蓄積する。
炭素源としては、糖や植物油など様々な有機物が挙げられる。
PHAは生分解性や生体適合性をもつことから、石油由来プラスチックの代替プラスチック材料として注目を集めるようになった。
PHAを含む製品の例
PHAを原料としたバイオマスプラスチック製品の例としては、以下が挙げられる。
- 冷凍品用包装や緩衝材に用いるフィルム、シート
- ボールペンなど文房具
- 使い捨て食器(ストロー、フォーク、スプーン、皿)
- 苗ポット
- 釣り糸
海藻を原料としたPHA合成
本発明者らは、これまでに、アルギン酸資化能およびPHA合成能を有する微生物を利用
して、アルギン酸からPHAが製造できることを見出している。本発明者らは、本願におい
て、アルギン酸資化能およびPHA合成能を有する微生物を利用して、海藻を原料としてPHA
が製造できることを見出した。
今回取り上げる特許は、海藻を原料に微生物にPHAを合成させるバイオマスプラスチック製造方法に関するものである。
発明の特徴
特徴としては、以下の2つが挙げられる
- 海藻を含む培地
- アルギン酸資化能をもつ微生物
①海藻を含む培地
ある種の微生物を、海藻を含む培地で培養することでPHAを合成させることが今回の発明における特徴である。
海藻、とくに昆布やワカメなどの褐藻類には、「アルギン酸」が含まれている。ある種の微生物は、このアルギン酸からPHAを合成していると考えられる。
海藻を含む培地として、海藻を粉砕機などにより粉砕して培地に添加することでPHAの合成効率が向上する。
アルギン酸
画像引用元:Wikipedia
アルギン酸は、褐藻類に含まれる天然多糖類である。海藻の中では、海中に含まれるカルシウムイオンなどと塩を形成し、ゼリー状態となって細胞間隙をみたす形で存在する。
アルギン酸の抽出
海藻からアルギン酸を抽出する場合は、以下のような工程が必要である
- 海藻に炭酸ナトリウムを加えて加熱することで、Na+とCa2+をイオン交換させ、アルギン酸カルシウムをアルギン酸ナトリウムとする
- アルギン酸抽出液から炭酸カルシウムを除去
- 酸性にしてアルギン酸を沈殿させてろ過する
②アルギン酸資化能をもつ微生物
今回の発明で用いる微生物は、「アルギン酸資化能」と「PHA合成能」をもつ。
「資化能」とは、微生物がある物質を栄養源として増殖できる性質を表す。
したがって、アルギン酸資化能をもつ微生物とは、アルギン酸を栄養源として増殖する微生物である。また、PHA合成能をもつ微生物は、アルギン酸からPHAを合成することができる。
アルギン酸資化能をもつ微生物の例として、プロテオバクテリア門に属する海洋細菌や、コベティア属に属する細菌が挙げられる。
特にコベティア・マリナ(Cobetia marina)およびその近縁種から選択することが好ましい。
メリット
海藻を原料にPHAを合成するメリットとしては、以下が挙げられる。
- アルギン酸の抽出工程が不要
- 海藻を有効利用できる
- 資源の確保
①アルギン酸の抽出工程が不要
今回の発明では、海藻を添加した培地でアルギン酸資化能をもつ微生物を培養する。微生物はアルギン酸を炭素源にPHAを合成するため、海藻からアルギン酸を抽出する工程が不要となる。
②海藻を有効利用できる
海藻からバイオマスプラスチックを製造することができれば、海藻を有効利用できる。
日本では、ワカメ加工において収穫量の60%が廃棄されており、産業廃棄物として処理する必要性がある。また、こうした海洋廃棄物の不法投棄が問題となっている。
海藻をバイオマスプラスチックの原料として用いることができれば、海洋廃棄物を有効に利用することが可能となる。
③資源の確保
日本には海藻が豊富に存在する。バイオマスプラスチック原料として海藻を利用できれば、将来的にPHAの原料を輸入に頼らずに製造できる可能性がある。
参照
- アルギン酸とは
https://www.kimica.jp/alginate/about/ - アルギン酸の製造プロセス
https://www.kimica.jp/alginate/process/ - 生分解性プラスチック入門
http://www.jbpaweb.net/gp/ -
高分子量バイオプラスチックを生産する海洋性の光合成細菌
https://www.riken.jp/press/2016/20160818_2/