バイオ・メディカル

バイオフィルムとバイオフィルム阻害剤

今回は、「バイオフィルム」についてまとめます。

また、バイオフィルム阻害剤に関連する以下の特許を取り上げます。

【公開番号】特開2023-31647(P2023-31647A)
【公開日】令和5年3月9日(2023.3.9)
【発明の名称】口腔内バイオフィルム形成阻害剤

バイオフィルムとは

バイオフィルムとは、固相表面に形成される粘着物であり、生物膜とも呼ばれる。

排水口などの表面には、ぬめりのある粘着物がみられる。この粘着物は、微生物が集まって膜を形成したものであり、これをバイオフィルムという。

バイオフィルムは微生物の生存戦略

微生物は、外部の環境から自分を守るための物質を産生する。この物質は多糖やタンパク質などであり、微生物を包み込むように保護膜が形成される。

細菌などの微生物は、バイオフィルムを形成することによって殺菌剤や抗菌剤、免疫反応から身を守る。

バイオフィルムによる影響

バイオフィルムにより、以下のような問題が生じる。

  • 歯周病などの口腔内疾患
  • 感染症
  • 金属が腐食されることによる施設の老朽化
  • 水の微生物汚染

上記のほか、例えば食品プラントの配管でバイオフィルムが形成された場合、バイオフィルムが剥がれ落ちて異物として製品に混入することも起こり得る。

食品にこのような異物が混入すると、食中毒の原因となる場合もある。

口腔内のバイオフィルム

歯垢(プラーク)

口腔内に形成される歯垢(プラーク)もバイオフィルムである。プラークは、唾液が除去しきれなかった食べかすに細菌が集まって増殖したものである。

唾液に含まれるリン酸やカルシウムがプラークに付着して石灰化すると歯石になる。プラークを放置すると数日で石灰化し、歯石となる。

プラークができるまでのメカニズム

プラーク(バイオフィルム)ができるまでのメカニズムをまとめる

①ペリクル

歯の表面に唾液のコーティング(ペリクル)ができる

②善玉菌のプラーク

ペリクルの上に、唾液を好む善玉菌やレンサ球菌など好気性菌が定着する。このプラークは粘着性を持たず、「健全なプラーク」である。

③歯周病菌

善玉菌プラークの表面を、悪玉菌(歯周病菌)が覆う

④バイオフィルム形成

悪玉菌が菌体外物質を産生し、粘着性のあるバイオフィルムを形成する

う蝕(虫歯)

歯の表面では、脱灰再石灰化が繰り返されている。

脱灰は、バイオフィルム(プラーク)に存在する虫歯菌が酸を放出することによって、歯のエナメル質からリン酸やカルシウムが溶けだすことをいう。

再石灰化は、溶けだしたリン酸やカルシウムが飽和状態となり、唾液中のフッ素によって再び歯の中に取り込まれ、歯の表面が再生することである。

う蝕(虫歯)は、脱灰の頻度が多くなったり、脱灰が長時間続いたりすると発生する。

生体内におけるバイオフィルム

口腔内のほか、生体内におけるバイオフィルムについてまとめる

医療デバイス

以下のような人工の医療デバイスにバイオフィルムが付着して、感染症が引き起こされることがある

  • カテーテル
  • 人工血管
  • コンタクトレンズ
  • 人工関節
  • 人工弁

カテーテル関連血流感染、尿道留置カテーテル関連尿路感染といった感染症は、カテーテルに形成したバイオフィルムが原因となる。

バイオフィルムが血流にのって急性菌血症や塞栓症を引き起こすこともある。

耳鼻科領域の疾患

バイオフィルムは中耳炎や副鼻腔炎の原因となる。

例えば、鼓膜の奥にある中耳に水がたまる「滲出性中耳炎」は、浸出液や中耳に存在する細菌がバイアを形成したバイオフィルムである。

バイオフィルムによって細菌が免疫応答を回避し、抗生物質からも身を守っていると考えられる。

尿路感染症

尿路結石に細菌が付着し、バイオフィルムを形成することがある。これによって細菌が粘膜バリアを破壊し、抗生物質の効果を阻害して難治性尿路感染症となる。

尿路感染によって尿が停滞し、全身に感染が広がって多臓器不全をきたす場合もある。

腸管内のバイオフィルム

腸管内には多くの菌が存在している。これらの菌は食物の消化や吸収、ビタミンの生成において重要な働きをもつ「有益な菌」が多い。

有益とされている菌もまた、バイオフィルム形成能をもつ。腸管内でバイオフィルムを形成することによって、ヒトの腸管という環境で存在できると考えられる。

バイオフィルム阻害剤に関する特許

本発明は、作用効果に優れながらも、食品や植物由来の成分を有効成分とした安全性の
高い口腔内バイオフィルム形成阻害及び口腔用組成物を提供することを目的とする。

う蝕の原因となる細菌によるバイオフィルムの形成を阻害するために有効とされる「カテキン類」と「プロテアーゼ」を成分とする、バイオフィルム阻害剤に関するものである。

プロテアーゼ

プロテアーゼ(protease)は、ペプチド結合の加水分解を触媒することによって、タンパク質をより小さなポリペプチドやアミノ酸に分解する酵素である。

プロテアーゼには様々な種類があるが、今回は口腔内で使用することから、食品由来のプロテアーゼであるパパイン、ブロメライン、ナットウキナーゼが好ましい。

プロテアーゼは、プロテアーゼを含む原材料から単離・精製することができるが、市販のものを使用すると簡便である。

カテキン類

この発明における「カテキン類」とは、以下の8種のことをいう。

カテキン(C)
ガロカテキン(GC)
エピカテキン(EC)
エピガロカテキン(EGC)
カテキンガレート(Cg)
ガロカテキンガレート(GCg)
エピカテキンガレート(ECg)
エピガロカテキンガレート(EGCg)

上記のカテキン類は、茶葉から抽出・精製する方法や化学合成によって合成する方法で得ることができる。また、カテキン類を含有する市販のものを使用することもできる。

用途

バイオフィルム阻害剤は、以下のような用途で用いることができる。

  • 製剤
  • 口腔用組成物
  • 飲食品

①製剤

粉末状、類粒状、錠剤状、液状など、任意の剤形に製剤化して用いる。合わせて、賦形剤、結合剤、安定剤などを用いることができる。

②口腔用組成物

以下のような口腔用組成物として用いる
練り歯磨き
液状歯磨き
泡状歯磨き
入れ歯安定剤
洗口剤
マウスウォッシュ
タブレット

③飲食品

経口的に摂取する飲食品、健康食品、機能性食品、医薬部外品などに用いる。

具体例として以下のような飲食品が挙げられる
清涼飲料
チューインガム
キャンディー
パン
菓子
チョコレート

参照

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