微生物を利用した排水処理法である「活性汚泥法」についてまとめる。
活性汚泥とは
画像引用元:池田市上下水道部 ※活性汚泥微生物の一例(アメーバ)
「活性汚泥」とは、細菌類、原生生物、後生生物などの微生物の集まりのことである。活性汚泥では、微生物が互いにくっついてフロックという塊になって水中を浮遊する。
多くの微生物は有機物を吸収・分解することによって増殖するという特性を持つ。その特性を利用して、排水中の有機物を分解させることができる。
活性汚泥は下水処理場などで生活排水・汚水の浄化に用いられる。
「活性汚泥=微生物の塊」ではない
活性汚泥を構成しているのは微生物だけではない。
活性汚泥において有機物の処理能力を持つのは微生物だが、微生物が産出する有機化合物、汚水に含まれる難分解性の無機物なども「活性汚泥」に含まれる。
活性汚泥法とは

活性汚泥法は、活性汚泥の好気性微生物(酸素を利用して代謝を行う微生物)を利用した汚濁物質処理法である。
微生物は有機物を二酸化炭素と水に分解して代謝を行う。また、代謝で発生したエネルギーを利用して増殖する。
活性汚泥法では、「汚水」「活性汚泥」「微生物が活性化するための酸素」を混合し、微生物に汚水中の有機物を吸収・分解させて浄水する。
活性汚泥法は、大きく以下の2つに分類することができる。
- 標準活性汚泥法
- 膜分離活性汚泥法
標準活性汚泥法
標準活性汚泥法は、反応槽で汚水と活性汚泥を混合して、活性汚泥を沈殿させて上澄み水と分離し、上澄み水を処理水として流出する方法である。
沈殿した活性汚泥は、一部が返送汚泥として再び反応槽に戻される。残りは「余剰汚泥」として汚泥処理施設で脱水・焼却して処分される。
活性汚泥法による下水処理
活性汚泥を用いた下水処理場での下水処理の流れを以下にまとめる。
①汚水が下水道を通って下水処理場に送られる
②最初沈殿池
最初沈殿池(水中の浮遊物を沈殿させる池)にて、汚水から砂や泥、ゴミが取り除かれ、曝気槽(反応槽、エアレーションタンクともいう)に送られる。
③曝気槽(反応槽)
曝気槽内に活性汚泥も一緒に送り込む。さらに酸素を送り込んで溶解させる。酸素によって、活性汚泥の微生物が活発に汚泥有機物を吸収する。この工程で、汚れの大部分が取り除かれる。
④最終沈殿池
最終沈殿池で、汚泥と上澄み水に分離する。汚泥有機物を吸収した微生物がフロックとなって沈殿することにより、浄化された上澄み水と分離する。
⑤沈殿汚泥と上澄み水の処理
沈殿した活性汚泥の一部は、返送汚泥として工程②に戻され、残りは余剰汚泥として排出する。上澄み水は塩素接触槽に送られ、塩素で殺菌・消毒してから海や川に流される。
標準活性汚泥法におけるバルキングの問題
標準活性汚泥法では、バルキングという現象によって活性汚泥の沈降性が悪くなることがある。
バルキングとは、活性汚泥が分散したり膨化したりすることによって沈殿能力が損なわれる現象である。活性汚泥の沈降性が悪くなると、上澄み水との分離が不十分になる。
その結果、上澄み水に多量のSS(Suspended solid、浮遊物質)が流入(キャリーオーバー)し、水質の悪化につながる。
バルキングは主に以下の2つに分類される。
- 糸状性バルキング
- 非糸状性バルキング
糸状性バルキングでは、糸状の微生物がフロックに入り込む。その結果、フロックは表面積が大きいのに比重が小さくなり、沈降性が悪くなる。

非糸状性バルキングは、糸状性微生物ではない物質に起因するバルキングである。粘性のある物質を含み、保水性が高いために活性汚泥が凝集しにくく、沈降性が悪くなる。

通常の状態では、活性汚泥はフロックとなりその重みによって沈殿する。しかし、バルキングが生じると活性汚泥の沈殿が阻害されてしまう。
バルキングの原因
バルキングの主な原因は以下の通りである。
・曝気槽の過負荷
・酸素不足
「曝気槽の過負荷」とは、曝気槽内に微生物の処理能力以上の汚濁物質が存在し、過栄養状態になることである。
曝気槽が過栄養状態や酸素不足になると、その環境に適した微生物が増殖する。これらの微生物は粘性を持ち、凝集力に欠けるため、バルキングが発生する。
活性汚泥と汚濁物質のバランス
曝気槽内では、活性汚泥の量と汚濁物質の量のバランスを保つことが重要である。バランスを保つために、「活性汚泥浮遊物質(MLSS)」や汚水の「生物化学的酸素要求量(BOD)」などの適切な設定が必要となる。
活性汚泥浮遊物質(MLSS)
活性汚泥浮遊物質(Mixed Liquor Suspended Solids:MLSS)は、反応槽(ばっき槽)内の活性汚泥などの浮遊物質のことである。MLSSの濃度をmg/Lの単位で表し、微生物濃度の指標として用いられる。
例えば、反応槽におけるMLSSの濃度が基準となる範囲よりも低下した場合、反応槽内の微生物が不足していることを意味する。その結果、微生物処理能力が低下する可能性があるため、MLSSの濃度によって適切な活性汚泥を供給する。
ただし、活性汚泥には微生物以外の物質が少なからず含まれるため、MLSSが微生物濃度を正確に示すわけではない。
生物化学的酸素要求量(BOD)
生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand:BOD)は、微生物が汚濁物質を酸化・分解するために、水1Lあたり何mgの酸素が必要であるかを表したものである。
BODの値が大きければ、微生物が汚濁物質を分解するのに多くの酸素を必要としたということであり、汚濁物質が多いことを意味する。
膜分離活性汚泥法(MBR)

膜分離活性汚泥法(Membrane Bio Reactor:MBR)は、活性汚泥法と膜分離法を組み合わせたものであり、最終沈殿池の代わりに「ろ過膜」を用いて固液分離を行う方法である。
汚泥や大腸菌は膜で阻止され、処理水はそのまま中水として利用できる。中水は飲用できないが、トイレ用水や公園の噴水、冷房用水などに用いられる。
さらに、中水を「RO膜(逆浸透膜)」で処理することによって、化学品、半導体、製紙などの工業用水として利用することもできる。
分離膜の種類
膜分離活性汚泥法では、分離膜に「細密ろ過膜(MF膜)」や「限外ろか膜(UF膜)」が用いられる。
細密ろ過膜(Micro-filtration: MF)
細密ろ過膜(MF膜)は、膜孔径が数十nm以上の分離ろ過膜であり、約0.05~10 µmの粒子を分離するために用いられる。細菌、ウィルス、超微粒子の除去などに用いられる。
限外ろ過膜(Ultra-Filtration: UF)
限外ろか膜(UF膜)は、膜孔径が約0.01~0.001μmとMF膜よりも細かい物質を分離できる。たんぱく質、酵素、細菌、コロイド高分子の除去などに用いられる。
MBRのメリット
標準活性汚泥法と比較したMBRのメリットは以下の通りである。
高い処理能力
標準活性汚泥法ではバルキングにより処理水にSSが混入することがある。
一方、膜分離活性汚泥法では曝気槽内にろ過膜を設置することで、活性汚泥の状態があまり良くない場合でも処理水へのSS流出を防ぐことができる。
余剰汚泥の生成量低減
活性汚泥法では、過剰に増殖した活性汚泥(余剰汚泥)を処理する必要がある。
膜分離活性汚泥法では、曝気槽内の活性汚泥濃度を高く保持できるために余剰汚泥が少ない。
作業工程の簡略化

MBRでは膜を使って固液分離を行うため、沈殿処理の必要がない。また、沈殿処理後の上澄み水の消毒の工程も不要である。
処理施設にかかる負担軽減
MBRでは固液分離のための沈殿池が不要であるため、従来の水処理施設と比較して1/2以上の省スペース化が可能である。
参照
- 活性汚泥微生物の紹介
https://www.city.ikeda.osaka.jp/jogesuido/soshiki/suisitsu/gyomu/gesui_suisitsu/13962.html#:~:text=%E6%B4%BB%E6%80%A7%E6%B1%9A%E6%B3%A5%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%82%92%E6%8A%8A%E6%8F%A1%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 - 好気性微生物の働きを利用した活性汚泥法
https://kcr.kurita.co.jp/wtschool/016.html - 活性汚泥法
https://www.chikusan-kankyo.jp/osuiss/kiso/0027.htm - 排水処理の方法(活性汚泥法)
https://www.hikita.co.jp/system/ - 下水の処理方法(水がきれいになる様々なしくみ)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41055c/gesuido5.html#:~:text=%E6%A8%99%E6%BA%96%E6%B4%BB%E6%80%A7%E6%B1%9A%E6%B3%A5%E6%B3%95%E3%81%A8,%E6%B1%9A%E6%B3%A5%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E6%8E%92%E5%87%BA%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 - バルキングの原因と対策
https://www.mkk-solution.com/haisui-bulking/