バイオ・メディカル

葉緑体(葉緑体における光合成のメカニズム)

この記事では、葉緑体と葉緑体における光合成のメカニズムについてまとめています。

葉緑体とは

葉緑体(Chloroplast)は二重の膜に包まれた細胞小器官であり、植物細胞が光合成を行うための器官である。

葉緑体の粒と板状の部分をチラコイド(thylakoid)といい、それ以外の空間(内部を満たす液体)をストロマ(stroma)という。

チラコイドは光を受ける受光体である。チラコイド膜には、カルテノイドやクロロフィルなどの光合成色素がタンパク質に結合した複合体として存在している。

葉緑体は、細胞核のDNAとは異なる独自のDNAを持つ。その理由は細胞内共生説によって説明できる。

葉緑体の細胞内共生

葉緑体の細胞内共生について知るためには、シアノバクテリアが大量発生した約27億年前にまでさかのぼる必要がある。

シアノバクテリアの発生

約27億年前に、シアノバクテリアが大量発生した。シアノバクテリアは藍藻ともよばれる細菌で、光合成をおこない酸素を作り出す。シアノバクテリアの発生により、大気中の酸素が増加した。

好気性細菌と核膜をもつ細胞の出現

そして約20億年前、好気性細菌と真核細胞が出現した。好気性細菌は酸素を取り込んで栄養素を作り出す細菌である。

真核細胞は核膜を有する細胞である。核膜は、細胞が大気中の酸素によって自分のDNAが影響を受けないように、DNAを膜で包んだことによりできたものである。

つまり、細胞膜と核膜の二重膜構造をとるようになった。2つの膜は同じ細胞からできた膜であるため、性質が同じ二重膜(同質二重膜)である。

ミトコンドリアの出現

その後、ミトコンドリアの共生がみられるようになる。ミトコンドリアは、元々は好気性細菌であり、他の細胞が核膜をつくる際に細胞内に住みついたと考えられる。

そのため、ミトコンドリアの内膜は自身の膜であるが、外膜は住みついた細胞の膜である異質二重膜を有する。

葉緑体の出現

さらに、ミトコンドリアと同じように、葉緑体の共生がみられるようになる。

葉緑体のもとになるシアノバクテリアは、ミトコンドリアと同じく他の細胞内に住みつくようになった。したがって、葉緑体も異質二重膜を有する。

このようにして、内部共生体が細胞小器官(オルガネラ)となった真核細胞が誕生した。また、10億年前には真核細胞が多数集まった多細胞生物が出現した。

葉緑体のDNA

ミトコンドリアと葉緑体が元々独立した生命体であったという細胞内共生説が生まれたのは、1960年代にミトコンドリアと葉緑体に独自のDNAが存在することが発見されたためである。

葉緑体DNAには、シアノバクテリアに由来する100個ほどの遺伝子があり、これらが転写・翻訳されることでタンパク質を合成している。

葉緑体を構成するタンパク質は3000個以上あり、残りのタンパク質を作る遺伝子は、共生進化の過程ですべて葉緑体DNAから染色体DNAに移行した。

つまり、進化の過程でほとんどのDNAを核のDNAに転移させて独立性を失ったが、光合成に関わる遺伝子など重要な遺伝子は残していると考えられている。

光合成とは

光合成は、光エネルギーを利用して二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から有機物(デンプンなど)と酸素(O2)を生成する反応である。

光合成は細胞の「呼吸」に必要なものである。呼吸とは、有機物などから二酸化炭素と水、そしてエネルギーであるATPを取り出すことである。

【呼吸】
有機物 + O2 → CO2 + H2O + ATP

植物は動物のように食事で有機物を取り入れて呼吸に使うことはできない。そこで、太陽の光を利用して光合成で有機物を取り込み、呼吸に使っている。

【光合成】
二酸化炭素 +  水 → 有機物 + 酸素 + 水
6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O

葉緑体における光合成のメカニズム

光合成の化学反応は、チラコイド膜で行われる「光化学系」と、ストロマで行われる「カルビン系」の2つに大きく分けられる。

光化学系

光化学系(Photo system、PS)では、光エネルギーを利用して水を酸素と水素に分解する。その際、ATPとNADPHが作り出される。

光化学系の反応はチラコイド膜で行われる。

カルビン回路

カルビン回路では、光化学系で作り出されたATPとNADPHを受けとり、有機物を合成する。カルビン回路の反応はストロマで行われる。

チラコイド膜とストロマそれぞれにおける光合成のメカニズムをまとめる。

光化学系(チラコイド膜における反応)

光化学系の反応はチラコイド膜で行われる。チラコイド膜には反応に関わる以下のタンパク質複合体が配置されている。

・光化学系II(PSII)
・シトクロムb6-f複合体
・光化学系I(PSI)
・ATP合成酵素

光化学系の反応は①光化学反応、②電子伝達系、③光リン酸化の3段階に分けられる。

①光化学反応


画像引用元:Wikipedia

光化学反応は、「光化学系I」「光化学系II」と呼ばれるタンパク質複合体が反応の中心となる。I、IIは発見された順番であり、反応は光化学系IIから光化学系Iへ進む。

光化学系I、IIに光があたると、内部の光合成色素であるカルテノイドやクロロフィルに光エネルギーが伝わる。

反応中心であるクロロフィルaに光エネルギーが伝わると、クロロフィルaの電子が基底状態から励起状態になる(活性化クロロフィル)。反応中心クロロフィルaは680nmの波長の光を吸収することから、P680とも呼ばれる。

不安定な励起状態となった活性化クロロフィルは、電子を放出して再び基底状態に戻る。電子を放出した光化学系IIの電子を補うためにH2OがO2、水素イオンH+、電子e-に分解され、活性化クロロフィルに渡す。

光化学系IIでの反応をもう少し細かくみてみる。

光が色素であるクロロフィルaにとらえられる。クロロフィルaは励起されて、電子を1つ電子受容体であるプラストキノンに送る。

不足したクロロフィルaの電子1つは、Mn4Caクラスターによって補われる。これを4回繰り返し、Mn4Caクラスターは水2分子から4つの電子を与えられる。これを水分解という。

水分子は以下のように分解される。
2H2O → O2 + 4H+

プラストキノンは電子を受け取って還元されると、プラストキノールになる。プラストキノールは電子をシトクロムb6-f複合体に渡し、再びプラストキノンに戻る。

②電子伝達系

シトクロムb6f複合体(Cyt b6f)は、プラストキノールから受け取った電子をプラストシアニンを経由して光化学系Iへと伝達する。

この時の電子の移動によるエネルギーを利用して、ストロマにあるH+がルーメンに移動する。H+が次々と移動してくることでH+の濃度勾配ができる。

光化学系Iから放出された電子とストロマ中のH+が脱水素酵素NADP+と結合し、NADP+は還元されてNADPHとなる。

NADP+ + H+ + 2e- → NADPH

③光リン酸化

チラコイド膜の外側のストロマでは、NADP+を還元してNADPHに変換するためにH+が使われ、H+が減っていく。

一方、チラコイド膜の内側であるルーメンでは、光化学系IIの電子がIに移動する際のエネルギーを利用してストロマからルーメンにH+が移動してくるため、H+が増える。

したがって、ストロマとルーメンにH+の濃度差が生じる(濃度勾配が大きくなる)。この濃度差により、ルーメンのH+がATP合成酵素を通ってストロマへ移動する。

H+が移動するときに発生するエネルギーを利用してADPがリン酸と結合し、ATPがつくられる。

ADP + Pi(リン酸) → ATP

光エネルギーを利用したリン酸化であるため「光リン酸化」という。

カルビン回路(ストロマにおける反応)

ストロマでは「カルビン・ベンソン回路」で反応が行われる。カルビン・ベンソン回路は、光化学系で作られたNADPH やATPを利用して、CO2を還元してグルコース(C6H12O6)に作り替える回路である。

図中のC3やC5は、炭素の数を示している。

反応は、①炭素の固定、②PGAの還元、③RuBPの再生(有機物の産生)という3つの段階に分けられる。

①炭素の固定

空気中から取り入れたCO2が、Rubisco(RuBPカルボキシラーゼ/オキシラーゼ)という酵素によってRuBP(リブロースビスリン酸またはリブロース二リン酸)と結合し、PGA(ホスホグリセリン酸)という分子になる。

6CO2 +  6RuBP → 12 PGA

②PGAの還元

チラコイド膜における光化学系の反応で作られたエネルギーであるNADPH とATPを利用して、PGAが還元されてGAP(グリセルアルデヒドリン酸)になる。

③RuBPの再生(有機物の産生)

GAPの一部から、有機物であるグルコース(C6H12O6)がつくられ、GAPがRuBPに戻る。

参照

光合成とは?化学反応の詳細や酵素、人工光合成について詳しく解説
https://www.rd.ntt/se/media/article/0020.html
植物が生長するしくみ 発芽と光合成
https://shop.living-farm.jp/?mode=f18
光合成色素はどこに存在しているのですか
http://www.photosynthesis.jp/faq/faq2-7.html
光合成のメカニズム解明に一歩前進
https://www.riken.jp/press/2016/20160714_1/index.html

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